AIKO

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 母と話しているといつも私は今話題のAIになった気分だ。 「ほらアレ、アレをアレしなくちゃいけないんだけど、どうしようかなあ?」 基本的にまずアレの特定から入らなければならない。 休日のお昼前。さっき彼女は冷蔵庫を開けて見ていてそろそろお昼ご飯の用意をする時間だしメニューの話か? 「お昼ご飯に何か使わなきゃいけないっていうこと?」 「うん。賞味期限切れそうだからアレを先に食べてしまいたいんだけど、何にする?」 二つ目のアレは当たった。 だがまだ一つ目のアレが何だか分からない。尋ねても名前は出てこないだろう。 だが私は何日か前から、飲み物を取ろうとするたびいつも冷蔵庫の同じ位置にある豆腐に気付いていた。 『豆腐を使った献立を教えて』と入力。 豆腐なんか朝の味噌汁に使えばいいだろう。私は朝食べないので朝ご飯だけは母が必ず作る。 しかしクライアントは今、昼ご飯に使いたい様子を匂わせている。 それは朝ご飯ではない豆腐料理を求めているということであり、長年の親子関係を加味すると、休日は家にいれば昼と夜は料理をする私に作ってもらいたい品が彼女の脳内にうすぼんやりとだが浮かんでいるのを示していた。 めんどくせぇ…というようなことはAIは言わないだろう。どんなくだらない質問にも答えてあげるのである。 私はAIになりきろうとした。AIは怒らないし文句言わない。 「じゃあ、麻婆豆腐にする?」 「あらいいね。お父さん好きだから喜ぶわ。お願い愛ちゃん」 私の名前は愛子。
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