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学校に行こう!
「私はこの後大学に行くけど、藍君も来るかい?」
マリーお姉ちゃんに焼いてもらったパンケーキを食べ終わると、おじさんが僕に言った。
「え!? 行きたい!」
おじさんのいる学校がどんな場所なのかとても興味があったから、僕は即答した。
「では行こうか。マリーは?」
「私はいいや。暑いし」
マリーお姉ちゃんはそう言って首を横に振った。
僕はリュックに宿題と財布とスマホを詰めて背負う。
「行ってきます!」
「気をつけて行ってらっしゃーい!」
マリーお姉ちゃんはそう言って僕らを見送った。
学校までは車移動なので、また黄色いおじさんの車に乗る。太陽はもう天高く昇っていて、僕は夏の熱気に包まれた。
おじさんがエンジンをかける。
「おじさんの学校ってどんな人がいるの?」
「普通の学生が多いけど……ちょっと変わった子もいるね」
「変わってる?」
「うん。一定の条件を満たすとすごい怪力を出す男の子、声を変えてどんな人にでも変装できる子とかね」
「へぇ~!」
「妖怪みたいな人間が多いね」
「妖怪ってそういうものなの?」
僕が尋ねると、おじさんは少し何かを考えるように黙った。
「妖怪と一言で表しても色々いるからね。器物の姿をしたものや、動物の姿のもの、天気や山々などの自然を妖怪にしたものもいる。さらには変わった人間や人間離れした人間を妖怪にしたものもいる。彼らの場合がそうなんだろうね」
妖怪の話をするおじさんはやけに楽しそうだった。
「おじさんは妖怪が好きなんだね」
「そう……だね。民俗学をやっていると妖怪が関わってくることが多いからね」
「それで詳しいんだね」
「面白いからね」
しばらく進んで、車が信号で止まった。
「──私はね、本物の妖怪を探しているんだよ」
信号待ちの間の沈黙を破るように、おじさんはニヤリと笑ってそう言った。
「本物の妖怪?」
「そう。古い本や絵巻物に描かれている妖怪さ。幸いにも仕事の都合上、怪異や怪奇現象なんかで悩んでいる人から色々な相談事が私のところに来るんだけどね」
おじさんは苦笑いしながら言った。
「残念なことに、実際に行って調べてみるとたいてい勘違いや見間違いだったりするんだ」
「妖怪には会えなかったの?」
「うん、会えなかった。さっき言ったみたいに妖怪『みたいな』人たちには知り合ったけどね。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』ってやつさ」
何が面白いのかわからないけど、カラカラとおじさんは楽しそうに笑う。
「何? それ」
「横井也有という昔の人が詠んだ俳句でね。幽霊だと思って怖がっていたものが、実は枯れたススキの草だったって話だ。私が不思議な現象や妖怪を調べると、残念なことにその枯れ尾花を見つけてしまうのさ」
丸いサングラスで目が見えないけど、楽しそうにしている。
「その枯れ尾花ってどんなのがあったの?」
「そうだな……ある学生からの相談はこうだった。家の食べ物が知らないうちになくなっていたり、変な音がするから調べてほしいって言われてね。その子の家まで行って調べたんだ。そしたら屋根裏に大きいアライグマがいた」
「アライグマ!?」
「そう。どうやら雨どいを伝って屋根の隙間から家の中に入ったらしい。私はこれを、夜な夜な人の家のご飯を盗み食う妖怪『狐者異』だと思った。『怖い』という言葉の語源にもなったといわれる妖怪だよ。そのほかには、さっき言った鬼のように強い力を持つ少年の身体を色々測定したり、田舎の家に憑く『犬神』という妖怪の結婚を手伝ったこともあるよ」
「何それめっちゃ面白い!」
僕がそういうと、おじさんはハンドルを回しながら笑った。
「大学にある私の部屋にはそういった事を書いた本がたくさんあるからね。興味があるなら読んでみるといい」
「わかった! ねぇおじさん! 自由研究の宿題でその『かれおばな』のことを書いてもいい?」
「ふむ……いいけど、大丈夫かい?」
「うん! 先生も『興味があることをなんでもいいからまとめてきてね』っていってたから」
「じゃあやってみようか」
「決定! たくさん聞かせてね! 『かれおばな』の話!」
そんな会話をしていると、車は門を通り抜けた。門の中には高くて大きい建物がたくさんあった。
「ここが水城大学だよ。私の資料室はこの先にある」
「おっきい建物がいっぱい!」
車はその大きい建物の裏を走る。木々が生い茂る道で人影がなかった。
「ここだ」
エンジンが停まった。車を降りると、そこには緑の葉っぱに覆われた赤いレンガの古そうな建物が建っていた。
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