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十二番資料室!
木々が作り出すトンネルには風に揺れる日が差し、蝉の鳴き声が静かに響いている。
赤レンガの建物は、他の校舎に比べて古そうに見える。壁や窓には植物が蔦を伸ばして絡まっていて、緑色のカーテンみたいだった。
「おじさん、この建物は?」
「ここは十二番資料室といって、大学の資料や本がたくさん収蔵されている所だよ。でも誰も使わないから、私が研究室として勝手に使っているんだ」
「仕事場ってこと?」
「そういうことだね。さぁ、暑いから中に入ろう」
玄関へ入り、テロテロになった緑色のスリッパに履き替える。中は薄暗くて静かで、放課後の校舎みたいだった。
ぺったんぺったんと足音を響かせながら3階に上がって、僕はおじさんに案内されるまま廊下の突き当たりの部屋に入った。
「うわぁ」
その部屋の中はまるで図書館みたいで、壁一面が本棚だった。その本棚に入りきらなかったのか、床のそこかしこにも本が積まれていた。カビか埃か、甘いようなにおいが部屋に充満していた。
「狭くてすまないね。そこにでも座ってくれ。麦茶でいいかい?」
「うん!」
そう言っておじさんが指差した場所には、黒い革のソファが低いテーブルを挟んで、向かい合うように置かれていた。
僕がリュックと一緒にソファに座ると、ズボッとお尻が沈んだ。
「うおっ」
起き上がれないビーズソファのような感触に驚く。深く沈んだお尻を起こそうと頑張ってもがいたけど、起き上がれなかった。僕は諦めて、深くもたれかかった姿勢で部屋中の本棚を見回した。本棚には分厚い本に薄い本、難しい漢字で読めない名前の本、茶色く焼けてボロボロになった本など様々な本が、ぎっしりと規則正しく背の順に並べられていた。そんな膨大な量の本に僕が圧倒されていると、おじさんが本棚の奥から冷たい麦茶の入ったグラスを持ってきた。
「藍君、私はこれから会議に行かなければならないんだ。だからすまないけど、少しの間だけ席を外すよ。退屈だったらこの部屋の本は好きに読んでくれていいし、暑いけど広い大学内を散歩してくるのもいいよ」
おじさんは何故か、僕に申し訳なさそうにして言った。
「大丈夫だよ! わかった!」
僕はキンキンに冷えた麦茶を一気に飲み干して、
「じゃあ散歩に行ってきます!」
と部屋を飛び出した。
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