願いを叶えるカフェ【ヴー・リアン】へようこそ。

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この町には似合わない少し古びた木造の扉を開けると、 カランカランと、音が鳴った。 音のした方に視線を向けると、 目を開けている銀色のフクロウが印象的なアンティーク調のドアベルがあった。 銀色のフクロウのデザインは、どこにでもあるようなデザイン。 けれど、そのフクロウから目が離せなかった。 何だか、フクロウがこちらを見ているような気がした。 まるで、フクロウの目に吸い込まれてしまいそうな…そんな感覚に陥る。 「ようこそ、お越しくださいました。」 後ろから高く綺麗な声が聞こえ、声が聞こえてきた方に振り向く。 そこには、腰まである真っ黒いストレート髪を頭の中間くらいでまとめ、 真っ黒上下服に茶色いエプロンが印象の女性の店員がいた。 真っ直ぐ凛とした姿勢に、細い指先の綺麗な形をした爪。 顔はカウンターが薄暗くて上手く見えなかった。 けれど、その女性が綺麗な人だということは容易にわかる。 「こ、こんにちは」 ペコリと私は玄関前で頭を下げる。 「本日はどのようなご用でしょうか?」 こちらには全く視線を向けず、キュッキュッと薄いタオルでガラスを磨いている。 「ここに来ると、願いが叶うと聞いて…」 「叶えたい願いがあるのですね?」 「は、はい…」 「では、こちらの席にお座りください」 店員さんの目の前の席を指名した。 私は、コクリと頷き、指定された席に腰を下ろす。 「コーヒーはお飲みになられますか?」 「あ、ごめんなさい…。 コーヒーは飲めなくて…」 「それは失礼いたしました。 では、紅茶でしたらいかがでしょう?」 店員さんの問いに、私はコクリと頷く。 「では、ご用意致しますので、少々お待ちくださいね。」 店員さんは後ろの棚をがさごそと物を取り、紅茶を淹れる準備をする。 私は、準備をしてくれている間に、ぐるりとお店を見渡す。 お店は、全体的に薄暗く、何が置いてあるのかよくわからない。 カウンターは特に照明を落としている。 基本的に自分の目の前のものしか認識ができないほど。 「紅茶が出来上がるまでもう少しお待ちください。 出来上がりましたら、お話をお伺いさせていただきます。」 店員さんはそう言って、私の目の前にコースターを置いた。 コースターには、【ヴー・リアン】という文字。 「ヴー・リアン?」 見慣れない言葉にポロリと口からでた言葉。 「ここのお店の名前なんです」 店員さんは、また後ろを向く。 【ヴー・リアン】というお店。 確か… 【ヴー】は【願い事】 【リアン】は【繋ぐ】 という意味だって、最近読んだ本で書いてあった。 願い事を繋ぐ…店? この町には最近よく耳にする噂話があった。 それはー。 『願いを叶えてくれるお店』がある、とー。 そのお店に出逢えるのはよっぽど運が良くないとダメらしい。 そもそも誰もそのお店に出逢ったことがない、とか噂もある。 けれど、私は出逢ってしまったのだ。 『願いを叶えてくれるお店』ー【ヴー・リアン】にー。 この店があの噂の店なのかなんて、わからない。 ただ、このお店の前を通った瞬間に直感で思った。 「ここがあの噂の願いが叶うお店だ」って。 何でそう思ったかなんてわからない。 ただ、ただ私の本能がそう告げた。 だから、このお店に入った。
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