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私の家族は年の離れた社会人のお姉ちゃんだけだった。
両親は、私が小さい頃に事故で帰らぬ人となった。
親戚たちが私たちを引き取る話も出たらしいが、お姉ちゃんが断ったらしい。
何でも、両親がいた今の家で私とお姉ちゃんと暮らしたい、とー。
親戚たちが必要最低限が援助をしてくれていたものの、
お姉ちゃんは、私に不自由がないように高校に行きながら朝は早く、夜は遅くまで働いていた。
お姉ちゃんだって、きっと恋やオシャレだってしたかったと思う。
けれど、そんなことは全部二の次だった。
私はそんなお姉ちゃんに感謝をする反面、罪悪感に苛まれて仕方なかった。
だって、お姉ちゃんに負担をかけているのが自分だと思うと、
お姉ちゃんに顔を合わせたくなかった。
ううん、合わせられなかった。
そして、事故の当日。
朝、いつものように学校に行く前に朝食を食べていた。
「これ何?」
就職という文字に大きく丸してある、進路調査表の紙をバシッと机の上に置いた。
私は今、高校3年生。
5月ということもあって、
本格的に進学か就職かを決める進路提出を学校に出さないと行けない。
それは、今回の進路調査表だった。
「進路だよ?」
お姉ちゃんが少し怒っているのは伝わったが、気にせず口にご飯を入れる。
私は、進学より就職してお姉ちゃんに恩返ししたいもん。
早く働いて、お姉ちゃんを楽にしてあげたい。
「それはわかるわよ。
あんた就職するの?」
「うん、するよ」
「進学は嫌なの?
あ、もしかしてお金のこと気にしてる?」
「ううん、お姉ちゃんにこれ以上負担かけたくないから、働こうかなって!」
お姉ちゃんはきっと喜んでくれると思い、ニコリと微笑んだ。
しかし、バンッと机を勢い叩く音が聞こえ、ビクリと体が震えた。
え?
お姉ちゃん?
お姉ちゃんの顔を見ると、眉間に皺を寄せて心底怒っていた。
「それが理由なら、進学しなさい!」
「え?」
「別にあんたなんか負担じゃないわよ。
お金なんてどうにでもなる。
あんたはちゃんと進学しなさい」
「でもっ!」
「でも、じゃない!ちゃんと進学するの!わかった?」
いつもよりキツく言い切るお姉ちゃんにイライラしてしまう。
「何で私の進路をお姉ちゃんが決めるの!」
私の話も聞いてほしい。
ちゃんとお姉ちゃんのことを思っての決めた進路なのに…!
「あなたのためを思って言ってるの!」
「違う!」
「紬!」
名前を大きな声で呼ばれて、ビクリとなる。
自分の思いが伝わらないもどかしさで涙がだんだんと溜まっていく。
「何で、お姉ちゃんはわかってくれないの!
お姉ちゃんの馬鹿!」
私は、学校の鞄を持って玄関に向かう。
「ちょっと、紬!」
お姉ちゃんが呼び止めるも、私は無視をして靴を履き、バッとお姉ちゃんに振り向いた。
「お姉ちゃんなんかいなくなっちゃえ!」
そう言って、勢いよく家の外に出た。
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