愛妻

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 七月の晴れた青空の下、私は妻の冴子と庭を散歩していた。  あまり手入れのされていない庭は、生い茂った雑草で青い匂いがする。昨晩降った雨で草木がキラキラと輝いていた。 「冴子、暑くはないかい」  冴子は車椅子の上で首を揺らして返事をした。 「そうかい、それは良かった」  私は冴子の頭に乗った麦わら帽子がずれているのを直してやった。気持ちの良い陽気に当てられて、冴子はうつらうつらしているようだ。車椅子の取っ手を握り、ゆっくり押し歩く。  私が経営していた会社を売り払ったのはもう五年も前になる。妻と二人で静かな老後を過ごそうと、これまでの蓄えを全て使って田舎に家を買った。辺鄙な土地柄だけあって、それなりの資金でも広々とした庭付きの戸建てを購入する事が出来た。  自然豊かな土地を求めたのは妻が病弱だったのも理由だった。歳を重ねる毎に寝込む事が多くなっていたから、少しでも空気の綺麗な場所で元気に過ごしてもらいたかったのだ。
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