愛妻

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 こんな良いところで余生を過ごせるなんて、私たちは幸せだなあ、と、しみじみ想う。 「おや」  茂みから狐が顔を出した。 「また遊びに来たのかい」  冴子は動物や虫たちに好かれる体質のようで、よく狐や野良犬なんかが寄って来た。 「あ、だめだって」  目を離した隙に、冴子の脚に蟻の行列が登ってきている。私は手で払い落とした。しかし冴子に嫌がる素振りは無い。優しい冴子は蟻たちを穏やかな表情で見つめている。 「やあ、ごめんごめん。この蟻たちは君のお友達だったな」  虫に嫌悪感のある私はつい追い払おうとしてしまうが、改なければな。  狐が近寄って来て、冴子の脚に勢い良く喰らいついた。 「コラッ」  私の怒声に驚いた狐が一目散に退散していった。 「大丈夫かい」  噛みつかれた脚を擦る私を、冴子が咎めるように見ていた。またやってしまった。あの狐も君の友達だったんだよな。  私は冴子に機嫌を直してもらいたくて、ランチボックスを開けた。中にはサンドイッチとおにぎりが詰めてある。私のお手製だ。 「そろそろお昼ご飯にしよう」  冴子が歯を剥き出しにして喜んでいる。頭の上でカラスが鳴いた。私たちのお昼ご飯が狙いか。それとも君も冴子に用事かな。分かってる、追い立てたりしないから、そんなムッとした顔しないでくれ。
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