シンとゆきちゃん

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さて、ゆきちゃんは、人間でいったらかなりの美人に相当するとおれは睨んでいる。まず、おとなしくて、楚々としている。黒くて美しい毛は、雅な日本人形を想起させる。 黒猫はだいたいおとなしいと言われるけれど、おれはおとなしくて楚々として黒髪の、いわゆる和風美人が好みだ。 それからゆきちゃんは、なんたって声がいいのだ。どの猫も、子猫時代の声は高くてかわいらしいものだけれど、ゆきちゃんは大人なのに子供のままの声をしているのだ。 「あん~~……あんっあんっ」 ゆきちゃんがメシを催促するときの声である。文字にするとなんだかいやらしいが、子猫が親猫や人間に甘えるときの声に、誰だってとろける心地になるではないか。猫だって、声がいいと得をする。 ゆきちゃんは、シンのようにだらしなく人間にべったり甘えたりしない。さわろうとしておれが寄っていくと、さっと逃げてしまう。知らん顔をして新聞を読んでいると、少しづつ寄ってくる。至近距離まで近づいた頃合いをみはからって再度、手をのばすと、やっぱりさっと逃げてしまう。 甘えたいけど、さわられるのは恥ずかしい。アンビバレントな心情が、とてもかわいい。おれはすっかり、ゆきちゃんにノックアウトされてしまった。 じじいのシンもゆきちゃんに首ったけで、毎朝夕の「鼻チョン」のあいさつのあと、ゆきちゃんのおしりをなめまわす。ゆきちゃんがシンのおしりをなめることは、絶対に無い。 (猫だから仕方ないとはいえ、ゆきちゃんのおしりをなめるシンが、ちょっとうらやましい)
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