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悪徳貴族が領地の人から奪った、その人の恋人の形見を取り返すという仕事だ。僕の所属している盗賊ギルドは、別に義賊というわけではないが、ボスの気まぐれで時にこういう仕事も引き受ける。
なんでも守りが硬いらしく、難攻不落だとされているその館。
冒険者ギルドから護衛も雇っているらしい。
だが僕にかかれば大した事は無いだろうと考えて、肩を回してから、僕は攻略に臨んだ。悪徳貴族がいるという部屋は、二階の寝室。そこを目指して、僕は祝福とスキルを使うまでもなく進んだ。
確かに警備はすごいが、これでも僕は手慣れた盗賊だ。
あっさりと目的地まで進んだ僕は、寝台の上のシーツの盛り上がりを見た。悪徳貴族は眠っているのだろう。そう考えながら、奥の金庫の前に立つ。そして針金を取り出した。スキルで鍵の形状に変化させ、気配を殺しながら解錠を試みる。
殺気を感じたのはその時だった。
「っ」
慌てて振り返り、僕は金庫の中からは肩身のネックレスを手に取りながら、左手で短剣を構えた。相手は剣士だ、と、分かったのは、僕の急所ではなく、目深にかぶったローブのフードを薙ぐように払われた時だった。
「あ」
すると相手――エフェルが声を出した。目を真ん丸に見開いている。
僕も硬直しそうになったが、慌てて、祝福で体を透明にした。
……見られた? いいや、暗がりで一瞬なのだから、『似ている』と思われた程度だろうと判断し、僕はそのままその場を離脱した。
こうして僕は、盗賊ギルドがエーデルワイスに構えている半地下の酒場で、形見の品を無事に組織の人間に手渡した。ただしその間も、ずっと胸の鼓動は煩かった。
今日だけ冒険者ギルドに顔を出さなかったら怪しまれると考えて、僕はなるべくいつもと同じ時間に顔を出す事に決める。本日の依頼は、一応草むしりを引き受けていて、それは昼間の内に終わらせていた。ただアリバイはばっちりだと思う。
「おい」
するとそこにいたエフェルに声をかけられた。僕を待ち構えていた様子だ。やはり露見しているようだが、僕はなんとかして知らぬ存ぜぬを押し通したい。
「なに?」
「今までどこにいた?」
「? 草むしりの依頼をして、その帰りには街でぶらぶらしていたけど……?」
「――少し、二人きりで飲みたい。話がある」
「……いいけど」
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