僕が凄腕魔術師になるまで

6/10
前へ
/10ページ
次へ
 悪徳貴族が領地の人から奪った、その人の恋人の形見を取り返すという仕事だ。僕の所属している盗賊ギルドは、別に義賊というわけではないが、ボスの気まぐれで時にこういう仕事も引き受ける。  なんでも守りが硬いらしく、難攻不落だとされているその館。  冒険者ギルドから護衛も雇っているらしい。  だが僕にかかれば大した事は無いだろうと考えて、肩を回してから、僕は攻略に臨んだ。悪徳貴族がいるという部屋は、二階の寝室。そこを目指して、僕は祝福とスキルを使うまでもなく進んだ。  確かに警備はすごいが、これでも僕は手慣れた盗賊だ。  あっさりと目的地まで進んだ僕は、寝台の上のシーツの盛り上がりを見た。悪徳貴族は眠っているのだろう。そう考えながら、奥の金庫の前に立つ。そして針金を取り出した。スキルで鍵の形状に変化させ、気配を殺しながら解錠を試みる。  殺気を感じたのはその時だった。 「っ」  慌てて振り返り、僕は金庫の中からは肩身のネックレスを手に取りながら、左手で短剣を構えた。相手は剣士だ、と、分かったのは、僕の急所ではなく、目深にかぶったローブのフードを薙ぐように払われた時だった。 「あ」  すると相手――エフェルが声を出した。目を真ん丸に見開いている。  僕も硬直しそうになったが、慌てて、祝福で体を透明にした。  ……見られた? いいや、暗がりで一瞬なのだから、『似ている』と思われた程度だろうと判断し、僕はそのままその場を離脱した。  こうして僕は、盗賊ギルドがエーデルワイスに構えている半地下の酒場で、形見の品を無事に組織の人間に手渡した。ただしその間も、ずっと胸の鼓動は煩かった。  今日だけ冒険者ギルドに顔を出さなかったら怪しまれると考えて、僕はなるべくいつもと同じ時間に顔を出す事に決める。本日の依頼は、一応草むしりを引き受けていて、それは昼間の内に終わらせていた。ただアリバイはばっちりだと思う。 「おい」  するとそこにいたエフェルに声をかけられた。僕を待ち構えていた様子だ。やはり露見しているようだが、僕はなんとかして知らぬ存ぜぬを押し通したい。 「なに?」 「今までどこにいた?」 「? 草むしりの依頼をして、その帰りには街でぶらぶらしていたけど……?」 「――少し、二人きりで飲みたい。話がある」 「……いいけど」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加