僕が凄腕魔術師になるまで

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 今年で僕も二十四歳になった。  なお、物心ついてから十五歳までの間、僕は……森都から西に抜けた先にある貧民街(スラム)エストワーレで暮らしていた。貧民街は、裏社会だ。主に盗賊(シーフ)や暗殺者(アサシン)の根城である。僕の祝福とスキルは、魔術師という職業の冒険者生活ではあまり役立たないが――闇稼業ではとても役に立った。だから僕は、捨て子だったけれど、早くに盗賊ギルドに拾われて、食べる物には困らない生活をしていた。けれど、日の下を歩きたかったし、きちんとした身分証が欲しくて、冒険者になった。  それでも……正直、魔術師としてだけの収入では、食べていけない。  だから今も、冒険者稼業の裏で、盗賊としての仕事も請け負っている。  ――闇稼業には、冒険者ランクとは別のランクが存在する。  僕はローブのフードを取りながら、壁を見た。そこには、人相不明として、一枚の手配書が張りつけてある。冒険者の中で賞金稼ぎ系の依頼をしている人々の、最近の注目の的である盗賊……『ジョーカー』。これは、僕の盗賊名だ。盗賊ランクS+(暫定SSS)である。僕も思う、そちらの道で食べていくべきだと。才能の無い魔術師として生きていくよりずっと裕福に暮らせる、と。だけど、僕は日の下を歩きたい……! 「おう、帰ったのかナジェ」  ぼんやりとクエストボードを見ていた僕に、受付から声がかかった。  我に返った僕は頷き、この日も依頼を達成したと報告した。  報酬を受け取ってからは、僕は本日は宿を取っていたので二階の客室に荷物を置きに行き、再び一階へと戻って、酒場に向かった。そしてカウンター席の一角に腰を下ろした。  ここで僕は、可もなく不可もない。  平々凡々な顔立ちであるから、特に目立つ事もない。気配が薄いのが僕の特徴だ。悲しい事に、それすらも盗賊向きだと言われている……。 「よ。飲んでるか?」  そんな僕の肩を、ポンと叩いた人がいた。顔を上げると、僕の隣の椅子を引きながら、目を細めて両頬を持ち上げて、エフェルが笑っていた。オリーブ色の髪と目をしているエフェルはSランクの剣士で、ここを拠点に活動している冒険者だ。長身で端正な顔立ちをしている。僕にも気さくに声をかけてくれる、ギルドの人気者だ。 「今、麦酒(エール)を頼んだところだよ」 「俺も頼む。すみませーん!」
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