じいちゃんと僕と夕焼けと洋楽と

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 僕のじいちゃんは、アレクサやスマート家電が大きらいだった。  家にいるときはそれでもよかったけど、施設に入ってからは問題だらけだ。  室温の調整やレクレーションのスケジューリング、トイレ補助の呼び出しなんかを全て、施設専用のAIロボットに頼まなくちゃいけないから。 「こんなモンに、人の世話ができるもんか」  じいちゃんは毎度、わざと変な喋り方をしたり、むちゃくちゃな要望を口にしたりして、AIロボットを混乱させて職員さんに怒られている。 「じいちゃん。機械には、きれいで正しい言葉を使わないとだめなんだよ」  僕の言葉に、じいちゃんは鼻で笑って「やれやれ」と首を横に振った。 「年寄りにそんなことができるもんか。口も頭もうまく回らねんだ。ばあさんを見ただろ。自分が今どこにいるのか、なにをしているのかもわからねえのに、きれいで正しい言葉しか聞き取れねえポンコツがいたってしょんねえわ。年寄り向けの施設が聞いてあきれる」 「じいちゃんは口も頭もよく回るじゃん。できるんだから、あんま職員さん困らせないでよ。いいところじゃん。きれいだし、自由だし、いいところだよ。ここは、元気だけど補助や見守りが必要な人の為の施設だから、空気も明るいし――」 「みきとも、つまらないことばっかし言うようになったな」  じいちゃんは車いすの向きを変えて僕に背を向けた。  その日以降、僕が面会に行ってもじいちゃんは部屋から出てきてくれない。 「じいちゃん。じいちゃん。ねえ、あんまり困らせないでよ」  僕の声は届いているのだろうか。  わからないけれど、今は部屋の外から呼びかけるしかない。  白いシンプルなドアの向こうからは、AIロボットの「聞き取れませんでした」という無機質な声だけが返ってきた。
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