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XXが多い星
これは、地球から遠い星でのお話。
大きなタワーの上に、一隻の宇宙船が着陸した。
扉が開くと、そこから一人の人間が降りてきた。髪をきちっと固めた背の高い男性だ。
「ようこそ、エフェット星へお越しくださいました。地球の大使よニョ」
出迎えたのは、この星の住人。
「私は、この星の外務大臣を拝命しておりますニョ」
地球の大使は住人を見上げた。住人は、彼よりも一メートル以上も背が高い。おまけに外見は人間と大きくかけ離れていた。
『巨大なスライム』それが最初の感想だった。地球の大使は、映像で住人の姿を知っていたため,驚きは無かった。しかし、目の当たりにすると威圧感があった。
黄色く粘っこい体、開いた口は大きく避けている。
大使は、瞳のない真っ黒な目を観察しながら「どこを見ているか分からないと、感情が読みにくい」と感じた。
「ありがとうございます、外務大臣。ところで、語尾に『ニョ』がつくのは、この星の特徴なのでしょうか?」
「あなたには、そう聞こえますかニョ? 自動翻訳機のせいでしょうかニョ。まあ、気にしないでくださいニョ」
自動翻訳機が、おかしな訳し方をするのは珍しくない。そのため、大使は気にしないことにした。
「ところで、出迎えは外務大臣、お一人でしょうか? 決して、大人数で出迎えてくれと言いたいわけではないのですが……」
大使は、誤解されないように両手をプルプルと振った。交流のある星に、大使を送り合うのは通例だ。
新しい大使の就任は大きなイベント。地球では、他の星から大使が就任するときには、大きなパーティーを催す。
「決して、手を抜いているわけではないですニョ。まあ、お茶でも飲みながらお話しましょうニョ」
前任の大使からの引き継ぎの申し入れがあったが、断った。事前情報が固定観念となり、偏見を持ってしまうことを避けたかったからだ。「自分の目で見て判断する」が地球の大使の信条だった。
* * *
建物の中に入ると、大使は広い部屋に案内された。大きなテーブル。室内は白を基調にしたシンプルなつくりだ。地球人にちょうどよい大きさの椅子が用意されていた。
窓の外に視線を向けると、小さなドーム状の建物が建っていた。この星の人々の住居なのだろう。この一つが自分の家になるのだろうか? そんな想像をしていると、外務大臣が盆にカップを載せて現れた。
「この星で取れる植物から作った飲み物ですニョ。前の大使は『地球のコーヒーみたいだ』と言って、とても気に入っていましたニョ」
カップをテーブルに差し出して、大臣は椅子に腰を降ろした。全身がブニョブニョなので、椅子に体が接するときにペタッと音がした。
「確かに、コーヒーのような香りがします……おっ、これは美味しい」
素直な感想だった。地球の大使はコーヒー好きだった。最初の食物が口に合うのは、嬉しいことだ。これなら、他の食べ物も期待が持てる。
それにしても……と、大使は思った。部屋に通されたあとも、この星の住人の姿が見えない。コーヒーのような飲み物も、大臣自身が用意したようだ。
「失礼ですが、この星の人々は、地球人に良い印象をお持ちではないのでしょうか?」
地球の大使と、エフェット星の外務大臣。互いに星を代表する者である。この点は最初にはっきりしておくべきであろう。
「いえいえ、めっそうもございませんニョ。気になることでも、おありでしょうかニョ?」
「出迎えが、あなたお一人。他の住人もスタッフも、誰一人、見かけておりませんので」
「ああ、そのことですかニョ。我が星の出迎えは、こんなものですニョ。他の星の大使の場合でも、同じですニョ。スタッフが少ないのですニョ」
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