繊月

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 会社は3年間、頑張って働いて来たが給料はほとんど手元にない。通勤用の服や化粧品、日用品が欲しい時だけ侑子さんにお願いしてお金を貰っていた状況なのだ。もちろんこちらが言った金額を受け取っても買い物の後、レシートをチェックされ千円以上の金額は返さなければいけないというルールが課せられていた。  しかも外に働きに出ているから、周りの目を気にして仕方ないという雰囲気だった。きっと家にいるだけなら何も買わないで済むのにと思っているのだろう。  一方、美晴は私とは違い大学を卒業した後、花嫁修行の家事手伝いの道を選んだが、実のところ何もせず自分の好きな舞台を見に行ったり、ランチや買い物三昧で好きに過ごしている。それに私の給料が使われていると知った時はショックだった。    現在、お財布の中には通勤用の実家―会社間のバス定期券と3000円くらいしかない。  それでも拓馬さんとの結婚は、もう出来ないと言うかしたくない。それだけは決めていた。実家に居続けることも私には出来ないだろう。父がああ言うという事は、無理矢理嫁がされるだけだ。絶望し死ぬ事も考えたが、死ぬ気になればなんでも出来るだろうし私が死んでも喜ぶ人しかいないと思えば、悔しくて死んでやるもんかという気になれた。やはりどこか別の場所でひとり生きていくのが一番いいと考えた。  とりあえず着替えと通勤用バッグに入れていた化粧ポーチ、財布をトートバッグに入れて支度を始める。  それから思い立ち、段ボール箱に詰めておいたアルバムから昔、撮ったさえこおばさまとひーちゃんと4人の写真と母の笑顔の写真を外し手帳に挟んでバッグに忍ばせる。  ほかに私が大事にしたいものなど何もなかった。     スマホは持つのをやめた。連絡先で入っている人たちは連絡を取りたい相手がひとりもいないし、場所を特定される恐れもないとは言えない。
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