三日月

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三日月

「すごい人…」  ちょうど春休みというタイミングだったため駅の近くの金券ショップで青春18きっぷの売り切り分をなけなしの3000円で買い、電車を乗り継いで東京までやって来た。 「えっと、どこへ行けばいいかな。」  駅の路線図を眺めて、これからを考える。18きっぷは今日一日しか使えないから移動するのは今日のうち。  お昼はこっそり持って来たおにぎりを公園のベンチで食べた。それからコンビニに置いてあったアルバイト冊子をパラパラと見てみたが、よく考えたら住居も電話もない私が就ける仕事なんて簡単に見つけられる訳がない。  あと数時間、夜までにこれからを決めないと食べるものも泊まるお金もない。  何もない女が簡単に出来るとしたら夜の仕事しかないだろうと行き先を田舎者の自分でも聞いたことがある新宿歌舞伎町界隈に決める。ひとりで歩いていたらそれでも何か見つけられるかもしれない。  持ち手が擦り切れたトートバッグを持ち、ほぼすっぴんに白いカットソーと黒のストレートパンツという年齢不詳なガリガリの女に声をかけてくる人は誰もいず、疲れて路地に少し入るとビルの壁に背中を預けた。 「はぁ…」  時計を見るともう5時を過ぎている。あたりはだいぶ暗くなって来た。  これからどうしようか、完全に手詰まりだ。それでもあのままあそこにいるよりは全然マシだと自分を鼓舞する。スマホは置いて来たし、まさかこんな遠くまで私がたどり着けているとは誰も思わないだろう。
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