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「それで名前は?」
キューテンさんに聞かれて名乗っていなかった事を思い出した。
「坂本莉乃です。」
「キューテンさん、名前も聞いてなかったのかよ。」
キューテンさんが何も聞かずに店まで連れて来て奢ってくれているというのは、よく考えてみると不思議な話だ。
「うちの店の前で変な勧誘に捕まっていたから、これで何かあったら嫌だったんだ。」
「えっ、何の勧誘?」
「たぶん金になるって連れてって味見してから、風俗に落とすつもりだったらしい。ただ俺のことを知っているからこの辺で遊んでいる奴らだろうな。」
「風俗?」
よーすけさんが私の声を拾い、こちらを向いて笑った。
「良かったね。キューテンさんに会わなかったら今頃、どこかの店に連れて行かれて客取らされていたかもだよ。」
「それでも良かったです…」
「どういう事だ。」
助けてくれたのにそれでも良かったという私をふたりは訝しげに見てくる。
「私、家を出て来たんですが、お金が何もないからもうそういう仕事でもいいかと思っていたんです。」
私は簡単に、婚約者に他の女性がいるのに親から結婚を強要されて家を飛び出して来た事とお財布の中身がほとんどないことを話した。
さすがに風俗でもいいと言いながら全くそっち方面の経験がなく、ふわっとしかそういうところで何をしているか知らないなんて言えないけど。
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