上弦の月

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 それでも部屋の食材や日用品は、私が仕事をしている時間にいつの間にか補充されているし、手元にある程度お金があった方がいいだろうと最初の2週間は特別に日払いしてくれた。  ひとりで外出したらダメと言われたし土地勘もないのでまだ全く使わずに財布に貯めこまれているから、私の生活はキューテンさんに全て世話されているって事でもしかしたら飼い猫で間違いない?少し納得いかない。  ただキューテンさんが優しいけど、私を恋愛対象ではなく妹かペットくらいにしか思っていないだろうと言う点は私を含めmoonlightのスタッフだけでなく、常連さんも同意見のようだ。  なんでもキューテンさんには以前から好きな女性がいるそうで、お店に来た女の子がアプローチして来てもめちゃくちゃ塩対応らしいから。 「莉乃さん、キューテンさん来ましたよ。」  私がいつものようにスタッフルームで事務仕事をしているとカウンターの中に立っていたバイトの昴くんがわざわざ言いに来た。 「だから、私は仕事しているんだけど。キューテンさんを待っているわけじゃないし。」   「莉乃ちゃんは俺が来たら迷惑か。」  キューテンさんが残念そうな顔をしてスタッフルームにやって来た。そんな顔しても困ります。それにみんなが変な勘繰りをするようになったらどうするつもりなんでしょう。 「キューテンさん、お疲れ様です。迷惑なんて事ありませんよ。」  そう言うとキューテンさんは目を細めてうれしそうな表情を浮かべる。そうよね。かわいがっているつもりの飼い猫にそっぽ向かれたらさみしいもんね。
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