新月

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 そんな中、半年ほど前に取引先の設備会社の一人息子である吉村拓馬さんとお見合いして結婚する話が上がった。  恋愛ではなく父の仕事がらみの紹介という政略めいたものだったし、話があった時点で決定事項。それでも会ってみると優しく穏やかそうな拓馬さんとなら暖かい家庭を作れそうと思えた。嫁として拓馬さんを支え家でも会社でも身を粉にして働くことになるが、いままでとやる事はさほど変わらないし、姑がいても侑子さんや美晴よりはましに思える。  結婚の可否は私に選択権は無かったが、交際が始まると拓馬さんは第一印象通り優しく接してくれた。そしてお見合いから3ヶ月後のクリスマスにレストランでプロポーズされた私は、春には仕事を辞めて花嫁修行と言う名目で拓馬さんとマンションで暮らし始め、吉村設備を手伝い、秋には入籍、結婚式とスケジュールが周りに決められていったが、この結婚により一番自然な形で家から出られるという事以上に楽しみになっていた。    今日は、もうすぐ結婚するので3月末で退職する事になった父の会社、坂本建設総務課の送別会だった。  残業も出来ないし、給料が手元に残らない私はランチも飲み会も参加できず、仲のいい社員がいたわけでもない。会社では付き合いの悪い地味な社長の娘と思われているとばかりいたから送別会をやってくれる程度には別れを惜しんでもらえて仕事をして来てよかったと思いながらマンションまで帰って来たのだ。  
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