新月

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「大丈夫よ。どうせ小さくなっているしか出来ないんだし。ほんとパパが拓馬との結婚を認めてくれないからだよ。拓馬も私もひとりっ子だから無理だって言うんだもん。でも拓馬よく考えたわよね。あれと結婚すれば私が義兄の家に出入りしてもおかしくないと周りは思うし。でもあれと拓馬を共有なんて面白くないわ。」 「大丈夫。あんなガリガリな女、唆られない。隣に寝ていても手を出す気にならないよ。最初はただのお手伝いさんかと思ったくらいだし。それで美晴の方は相手、決まったのか。妬けるな、そいつ。」 「パパの秘書だけど、社長の椅子を狙っているだけで私には興味ないみたいよ。私も他にいるから遊んで構わないって言ってある。私は拓馬だけ好きだからね。」 「そんな事、言われたら元気になっちゃうだろ。美晴、も一回。」 「あ、やん。」    私、坂本莉乃はどうやら婚約者に裏切られていたらしい。  裏切られたというか元々美晴と付き合っていて、隠れ蓑に利用されたという方が正しいのか。  優しいのは装っていただけだった。入籍するまでは抱かないと言っていたのは、経験のない私を思い遣ってでもなんでもなかった。    私はそおっと玄関まで戻ると何事もなかったように外から施錠した。私が今ここに来たことに気付かれないように。  そして拓馬さんにメールを送った。 ――実家に取りに行きたい荷物がある事を思い出したので、今夜は実家に帰ります。おやすみなさい。  もう2人が絡み合っていたベッドのある部屋に帰りたくなかった。
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