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繊月
「ただいま。」
誰にもおかえりとは言ってもらえないとは思ったが、癖で玄関の鍵を開けながら言っていた。
「あら、どうしたの。今日は会社の送別会だから来れないって言ってたじゃない。」
風呂上がりらしく、ちょうどキッチンで麦茶を飲んでいた侑子さんに廊下を通ろうとしたところを見つかってしまった。
「あ、忘れ物があって取りに来たのですが、ついでに明日の朝食の支度をしておきますね。」
「あら、そう。美晴は急に友達のところに泊まるって連絡あったから2人分でいいわ。」
「かしこまりました。」
美晴は、私が帰らないならと拓馬さんのマンションに泊まる事にしたのだろう。先ほどの2人の様子を思い出し、気分が悪くなる。
でも考えてみると拓馬さんは、美晴が私から取ったわけじゃない。元々付き合っていたって事だから私がお邪魔虫?
初対面の日に自分の部屋を取られた私が屋根裏部屋に移る時、持ち出せたのは下着と美晴の好みじゃなさそうな服、ランドセルなどの学用品、アルバムだけで、あとは美晴が使うか捨てられた。
そして美晴は私の通う小学校に転校して来て、見た目のかわいさとコミュニケーション能力の高さを使い、あっという間にクラスの子たちと仲良くなる。
私たちが微妙な姉妹関係とそれとなく仄めかし、いつの間にか彼女の方が表で父の子だと名乗れる存在だと周りに思わせるようになっていた。
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