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「ひーちゃん、つぎはおままごとしよ。」  幸せな記憶は5歳くらいのもの。優しい母と母の友達のさえこおば様がテラスでお茶をいただきながら、私たちを眺めている。  私はさえこおばさまの息子で5つ上のひーちゃんにお父さん役をさせて、赤ちゃん役のぬいぐるみをあやしていた。 「りぃ、まだやるの?」 「ひーちゃんはりぃのだんなさまなんだから、ちゃんとやって。……おかえりなさい。ほら、パパが帰って来たわよ。」 「…ただいま。」  私がにっこり笑うとひーちゃんは付き合ってくれた。  今にして思えば小学生の男の子が、母親の友達の家に連れて来られて帰るまで5つも下の女の子に付き合わされていたのだから、いい迷惑だっただろうと思う。  その頃の私は何も分かっていなかった。自分が当たり前のように思っていた毎日が砂上の楼閣ですぐ近くに不幸が口を開けて私が堕ちてくるのを待っていただなんて…
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