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管理人になった大魔王
「おパーティーと言えばとーぜんわたくしの出番ですわ~~~~! わたくしとパムリッタ様が手を携えてお開発した、最新型のイリュージョンお爆弾でお祝いさせて頂きますことよ~~~~!」
「お、おいパムリッタよ! 本当にこの爆薬令嬢の言葉を信じても良いのだな!? 管理人の自宅から出火などしたら、明日からまた無職に逆戻りなのだが!?」
「だいじょーぶっス! この爆弾は火薬も火も使わないクリーンボムっス! ど派手な爆発も火柱も、ぜんぶ最新式のホログラフィック映像っス!」
「わぁ! お二人ともすごいですっ!」
「きらきら……ぎれい……!」
「んにゃー!」
手作りの飾り付けで彩られたエクスとフィオの自宅。
そこでは予定していたとおりメルダシウスの初登校記念パーティーが開かれ、管理人チームはもちろんのこと、今日までの間に彼女と親交を深めた何人かの入居者達が顔を出していた。
「とっても嬉しいのだ……! このようにみんなからお祝いをして貰ったことなど……いつぶりかもわからなくて……っ」
「ならこれからもしようよ。今回はメルさんのお祝いだったけど、たとえばここにいる誰かのお誕生日とか……むしろ何もない日だって、関係なくお祝いしても良いと思うんだ」
「かるれんずさん……ナイズアイデアでず……!」
「それなら、次は〝わたくしとクラウ〟のご交際記念おパーティーにしませんこと? わたくしも無事こちらへの正式なお転居が終わりましたし、せっかくですからおど派手にお発表したいですわ~~!」
「そういえば、貴様らはあの後すぐにつきあい始めたのであったな! かつての大戦では人類側だったエルフの王族と、バリバリにモンスター代表のゾンビのロイヤルが交際など、これ以上ない慶事となろう!」
「クラウディオさん、フィアマさん。改めて、おめでとうございます!」
「でへへ……オイラ、とっでもうれしいでず……」
あのソルレオーネでの戦いがきっかけで仲を深めたフィアマとクラウディオも、今ではどこからどう見てもラブラブなリア充カップルである。
「しかしフィオはいつになったら帰ってくるのだ……まさか、病院での結果が良からぬものだったのでは……」
「みゃーみゃー?」
キッチンから手製の料理を手際よく運びながら、エクスはきらびやかなイリュージョン爆薬が炸裂する室内を歩いて行く。
エクスの足元ではクロがにゃーにゃーと鳴きながらその緑色の瞳をキラキラと輝かせ、自分のエサはまだかと必死に催促している。
だが実は今のエクスはそれどころではなく、まだ帰っていない最愛の伴侶のことで数多が一杯だったのだ。そして――。
「――今帰ったよエクスッッ! ああ……! 一刻も早く君の濃厚な愛を摂取しないと死んでしまうッッ!」
「フィオ! 随分と遅かったではないか、心配したのだぞ!?」
「うふ、うふふふふふふふふふふ……ッ! ごめんよエクス……この私としたことが、今日の検査結果にいささか動揺してしまってね……!」
「検査結果にだと!? だ、大丈夫だったのか!? 何か悪い病でも――!?」
その時、ようやくエクスが待ちわびていたフィオが帰宅する。
赤い瞳をギラギラと輝かせ、いつにも増して〝飢えた捕食者〟のような様子のフィオに、エクスは無防備にも心配顔で近づいていく。
「悪い病なんてとんでもないっ! ついに出来たのさ……君と私の子供がね! むちゅーーーー!」
「なッ!? 子供だと……ぬわーーーーーーーッ!?」
「ニャーーーー!?」
「ええええっ!? お二人の赤ちゃんが!?」
「アウアー!?」
「ま、まじっスかーーーー!?」
「な、なんとー!? それは真か!?」
「おめでとう、二人とも! 私も心からお祝いさせてもらうね!」
「んまーーーー!? そんなお感動の瞬間に立ち会えるなんて、わたくしもとってもおラッキーですわ!」
案の定、現れるなりほぼノータイムで突撃してきたフィオにがっつり押し倒されて捕食されたエクス。
しかしそのフィオの行動はいつもよりも穏やかで、すでに新しく宿った命への配慮が感じられるものだった。
「にゃー?」
驚いて目を丸くするクロの目の前。
万感の想いが込められた二人の視線が交わる。
「……ありがとうエクス。これからも、ずっと一緒にいようね」
「無論だ……! 貴様も決して俺を一人にするでないぞ! こう見えて、俺はかなりの寂しがり屋なのだからな!」
「するわけないでしょ? 君の方こそ、これからも絶対に逃がさないんだからね……!」
深い愛と絆。
それらをありありと感じられる二人のやりとりに、それを見守る仲間達は皆暖かな思いに包まれていた。
陽光のような才を持ち、最強の勇者としての力を持ちながら、それでもなお孤独へと落されたフィオレシア・ソルレオン。
一切の穢れを持たずに生まれ、仲間を愛し、誰からも愛されながら、その愛する者達を救うために孤独を引き受けたロード・エクス。
そして、誰よりも強かったが故に万年の孤独に囚われたメルダシウス――。
彼らは強く、立ち塞がる全ての障害を打ち砕くほどの力を持ちながら、それでも誰一人として、独力では孤独の闇を払うことは出来なかった。
そして勿論、孤独の闇に涙を流したのは彼らのような力ある者だけではない。
テトラも。クラウディオも。パムリッタも、カルレンスもフィアマも。
ユンや彼と共に過ごすバイト組も。
生きている限り、誰しも一度は望まぬ孤独に苛まれ、誰かの手を求めて彷徨う時がある。
そしてだからこそ、命は誰かと手を繋ぐことを止めず、これからも繋がり続けていくのだと。だから――。
「アハハー! これはこれは皆さんお揃いで~!」
「ラナ!? いきなりどうしたのだ!?」
「いやはや、とーっても感動的なシーンをお邪魔して申し訳ありませんねぇ~? 実はたった今、別の世界から〝結婚相手を探して異世界を渡り歩く脳内スイーツ中二病暗黒剣士〟がこちらに向かっておりましてぇ~。もし良かったら、またエクスさんにお出迎えして頂きたいのですよ~!」
「なんだそのクソ面倒くさそうな奴は!? 結婚相手など自分で探せば良かろう!?」
「それがまた色々と問題のある方でしてねぇ~。我が主の支配がなくなったことで、今後はこのような異世界ボッチの皆さんが頻繁にここを訪れると思いますよ~?」
突然現れたラナの言葉に絶句しつつも、エクスはやれやれと首を振ってフィオと共に立ち上がる。
「ふん……まったく、仕方のないことだ! だがいいだろう、このソルレオーネ管理人にしてフィオの夫。そして父となった俺にもはや不可能はない! ボッチだろうが中二病だろうが拗らせだろうが、可能な範囲で面倒をみてやろうではないか!」
「やれやれ、我が夫ながら本当にお節介焼きなんだから。でもいいよ……私はそんな君が大好きなんだ」
「な、ならば我も手伝うぞ! ボッチ歴では誰にも負けぬ自信があるのだ!」
「ぼくも手伝いますっ! 大魔王さま!」
「オイラも……! やりまず!」
「結局いつものノリっスね! 異世界のテクノロジーも吸収して、自分もさらなる高みを目指すっスよー!」
「もちろん、ワタクシもお手伝いさせて頂きますよォ~? この世界に何かあれば、ワタクシもボッチになってしまいますからねぇ~!」
「だがその前に、まずは諸々お祝いをしなくてはな! 今日も明日もその次の日も! まだまだ楽しい日々が俺達を待っているぞ! ファーッハッハッハ! ファーーーーーーーハッハッハッハ!」
「みゃー!」
元大魔王にして、現ソルレオーネ管理人ロード・エクス。
多くの仲間によって支えられ、再び動き始めた彼の時はこれからも続いていく。
このソルレオーネで。
そしてこの世界で。
大切な人々共に。
いつまでも――。
異世界タワマン大魔王 完
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