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その辛さを知る大魔王
「――これが我が主、メルダシウスの全てです。どうです、あまりにも平凡すぎて笑えませんかァ~?」
「あのドラゴンにそのような過去があったとは……」
「邪竜の残した呪いがどれも〝人を孤独に追い込むもの〟だったのも、それが理由だったってわけだね」
ラナの口から語られた邪竜の過去。
それは途轍もなく壮大でありつつも、どこか平凡な――ありふれた話のようでもあった。
「オイラも、ひどりはさびしがった……」
「俺も、テトラと会うまではチートや転生のことは誰にも話せなくて……」
「ぼくだってそうでした……みんなと違う力があるのって、大変なことだと思います……」
「自分も昔はそうだったっス……機械弄りが好きなドワーフは珍しいっスから、みんなからは変わり者扱いされてたっス。だから、自分には機械さえあればいいっなんて、意地になってた頃もあったっス!」
「お前達……」
「……それに関しては、私も人のことは言えないね」
邪竜の話に思う所があったのはエクスだけではない。
テトラもクラウディオも、パムリッタもユンも。
そして今もエクスの隣に座る勇者フィオレシアであっても。
命が命として共同体の中で生活していく以上、誰かと共に生きることの出来る喜びや暖かさも。
そしてその喜びが失われた際の苦痛も、誰しもが一度は味わったことがある感情だった。
「残念ながら、ワタクシではあの困った邪竜さんの孤独を癒やすことは出来ませんでしたァ。私が主から生まれた存在である以上、どうしても対等な関係にはなり得ない……」
「では貴様は、何万年もの間邪竜の孤独を癒やすためだけに……?」
「フフ……たとえ手のかかるガキ大将でも、ワタクシにとっては〝大切な親〟なのです。すでに主は散々取り返しのつかないことをしておりますがぁ、ここで止めることが出来ればこれ以上被害を出さずに済むんですよォ~? 私にとっても、貴方がたにとってもWin-Winな提案ではありませんか~?」
「うむ……」
ラナのその言葉に、エクスは一度大きく息を吐いて瞳を閉じると、腕を組んで深く考え込む。すると――。
「大魔王さま……! ぼくたちも、ドラゴンさんのためになにかしてあげられないでしょうかっ!?」
「テトラ……」
「オイラも……なんとかしてあげたいでず……!」
「そうっスよリーダー! 戦うのは話し合ってからでも遅くないはずっス! ラブ&ピースっスよ!」
「俺もテトラやアンタに助けて貰ったし……アンタなら、今回だってなんとかできるだろっ!?」
仲間達からの祈るような視線がエクスへと集まる。
エクスは彼ら一人一人にゆっくりと目を向けると、自らも味わった十年の孤独を想起した。
(――だがきっと、俺の十年など邪竜のそれと比べれば小石のようなものなのであろう。確かに俺はあの十年でかつてない程の孤独を味わったが、それでも俺には……)
「…………」
最後にエクスが視線を向けた先。
そこには、なにも言わずにエクスのことを見つめ続ける愛する妻――フィオの透き通った赤い瞳が輝いていた。
〝たとえ世界の全てが君の敵になっても、私はずっと君と一緒にいる!〟
エクスの心に、少女だった頃のフィオが必死に投げかけた言葉が蘇る。
あの時の少女は、確かにその約束を果たした。
全ての命が抗うことすら出来なかった邪竜の呪いをものともせず、ずっと傍で彼を支え続けてくれたのだ。
(俺にはフィオがいた……たとえ世界中から嫌われようと、何千何万という採用面接で不採用になろうと……それでも俺には、いつだってフィオがいてくれたのだ)
そう、実はエクスは〝本当の孤独〟を知らない。
どんなに寂しくとも、彼には常にフィオという自分を気にかけてくれる存在がいたからだ。
だがしかし。
もし邪竜の呪いを受けたエクスに〝フィオがいなかったら〟。
果たしてエクスは、全ての命から忌み嫌われた境遇でその優しさや強さを維持することが出来ただろうか?
(無理だったかもしれん……もはや俺には、フィオのいない日々など想像することもできんのだから。だがあの邪竜は、俺には到底耐えられぬような地獄を数万年もの間……)
思い至ったエクスは何も言わず、そっとフィオの手を握る。
フィオもその手を握り返すと、すべてお見通しとでも言いたげな笑みを浮かべて頷いた。
「なにもかも、エクスの好きにするといい。まあ……私には最初から、エクスがどう答えるのかなんて分かっているけどね」
「フッ……そうだな!」
仲間達の視線を一身に受けたエクスはフィオに頷き返すと、その場で高らかに宣言した。
「よかろう! かつて交わした約束通り……邪竜メルダシウスとの決着は、この無敵の管理人ロード・エクスがつけるッ!」
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