大魔王は臭いのも平気

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大魔王は臭いのも平気

「7010号室……ここだな」 「す、すごい臭い……っ!?」  場所はソルレオーネの中層階。  低層階と中層階をつなぐ高速エレベータに乗り込み、地上7階に位置する問題の部屋の前にやってきたエクスとテトラ。  二人はそこで、住民から受けた苦情どおりの凄まじい異臭に出迎えられた。  部屋のドアは閉まっているにもかかわらず、それでも漏れ出す強烈な臭いに、テトラは思わず目を回して倒れ込んでしまう。 「大丈夫かテトラよ!? 気をしっかり持つのだ!」 「はうぅ~~……こんなに臭いのに、どうして大魔王さまは平気なんですか?」 「ファーッハッハッハ! 大魔王の俺にとって、この程度の臭いなど日常茶飯事よ! だが貧弱な貴様には、俺が直々に臭気遮断の超古代呪文(エンシェントマジック)をかけてやろう! ありがたく思うがいい!」 「わぁ……! 臭いが消えました! ありがとうございます、大魔王さまっ!」  助け起こしたテトラに強力な魔術の保護を施したエクスは、同時にこれ以上周囲に臭いが漏れないよう、問題の部屋の入り口にも同様の術式をかける。   「ひとまずはこれで良かろう。あとは部屋の内部に踏み込み、恐るべき密室殺人事件の現場を確認せねばな! テトラよ、この部屋の主のことはわかるか?」 「はいっ。こちらにご入居されているのは、クラウディオ・ゾンビ18世さんです。由緒あるロイヤルゾンビのご子息で、こちらの物件をご購入されたのも、クラウディオさんのご両親名義になってるみたいです」 「ゾンビだと? 確かにゾンビはそれなりに臭うものだが、ここまで酷い臭いだったか? ええい、こうなれば直接確かめるまでだ!」 「お、お共しますっ!」  テトラから入居者の情報を聞いたエクスはすぐさま管理人用のマスターキーで扉を開けると、しんと静まりかえった室内へと踏み込む。だが――。 「入るぞ! 誰かいないのか!?」 「お返事は……ありませんね」  意外にも、室内に荒れた様子はなかった。  入ってすぐのフローリングの床には常夜灯だけが点灯し、奥に見える扉の隙間からはゆらゆらと動く光が見える。 「はわわ……だ、大魔王さまぁ……っ」 「俺から離れるなよ……何があるかわからんからな!」  怯えた子犬のように縮こまってエクスの服つかむテトラを背に庇うと、エクスは一歩一歩部屋の奥へと進んでいく。  そして二人が扉の向こうをのぞき込むと、そこには一台のテレビがつけっぱなしになっていた。  入り口から廊下までとは打って変わり、広々としたリビングには足の踏み場もないほどのゴミが散乱している。  さらに部屋の中央に置かれたテーブルの上には、食べかけのコンビニ弁当がぽつんと置かれていた。 「なるほど……ゴミの出し忘れというテトラの予想も、あながち間違ってはいなかったようだな。ここの住人は相当に部屋の片付けが苦手らしい。俺も人のことは言えんが……」 「で、でも……いくらゴミだらけって言っても、やっぱりこれだけじゃあんな臭いはしないと思うんですけど……」 「そのとおりだ。そしてすでに、俺の〝大魔王嗅覚(シャドーノーズ)〟はこの臭いの根源を察知しているぞ!」  その言葉と同時。  ぴくぴくと鼻を鳴らしたエクスは一瞬にしてその場から跳躍すると、ゴミの山もテーブルも越えて部屋の反対側――リビングと一体化したシステムキッチンへと飛び込む。そして―― 「く……っ!? なんということだ、やはり手遅れだったか……」 「だ、大魔王さまっ!?」 「来てはいかん! 残念だが、俺の最悪の予想が現実のものになってしまったようだ……!」 「え?」  それは、あまりにもむごい惨劇の現場だった。  完成からわずか一ヶ月。  まだ真新しいキッチンの床上には、変わり果てた姿のクラウディオ・ゾンビ18世が横たわっていたのだ。 「ゾンビ唯一の弱点である頭部を一撃で粉砕されている……いかに強靱な生命力を持つゾンビといえども、これでは……」 「お……お……かゆ……うま……おがゆ……うま……い……」 「ん?」  だがしかし。  苦悶の表情を浮かべるエクスの目の前で、完全18禁のグロ画像となったはずのクラウディオが、特に何事もなかったようにむっくりと起き上がる。 「ど……どどど……どぢらざま……でずが?」 「ぬわーーーー!? まだ生きておるではないか貴様ーーーー!?」 「おぼぼ……おどろがせでごめんなざい……オイラ、ゾンビだから……」 「よ、良かったぁ……! ご無事だったんですね、クラウディオさんっ!」 「管理人ざん……? あのぉ……おふだりはどうじてオイラの部屋に……? オイラ、まだなにがしぢゃいましたが?」  突然の蘇生にビビりまくるエクスと安堵するテトラ。  正反対の反応を返す二人に、蘇りしロイヤルゾンビ――クラウディオ18世は不思議そうに首をかしげるのだった――。
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