今日も頑張る大魔王

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今日も頑張る大魔王

「あー! まおーさまだ!」 「おはよーございますまおーさま!」 「いってきまーす!」 「気をつけて登校するのだぞがきんちょ共よ! とはいえ、このソルレオーネを中心とした半径50キロ以内で起きる交通事故や強盗は、我が力で〝全て未然に防げる〟がなァ……! ファーッハッハッハ!」   メルダシウスとの再びの対峙から数週間後。  日常を取り戻したソルレオーネの広場に、学校へと向かう子供達の元気な声が響く。  いくつもの長い列となって歩く子供達を見送るのは、黄色い旗をぶんぶんと振り回す大魔王――いや、今は〝無敵のマンション管理人〟。もしくは皇都の守護者として人々から認知されるようになったロード・エクスだ。 「おはよーリーダー!」 「俺っち達も無事に受験成功したわけですし~! これからは胸を張って管理人バイトを名乗れるってもんですよ!」 「おお、貴様らか! ということは、もしやメルも一緒か?」  早朝から大勢の人で賑わうソルレオーネ前。  人々の流れの中にバイト組の姿をみとめたエクスは、彼らと共に地元の学校に通うことになった〝少女の名〟を口にした。 「う、うむ……! 今日から学校なのだっ!」 「やはりそうであったか! 制服姿もなかなか似合っているではないか! ユン達と同じ学校というのも実に心強いな!」 「それはいいけどさ。僕なんて必死に勉強してやっと合格したのに、メルさんはいきなり来てぱぱっと入っちゃうんだもん。これが才能って奴なのかな……?」 「なにその言い方ー? あたしはとってもうれしーけど? メルちゃんすっごくかわいーし、これからもよろしくね!」 「そ、そうだな! 我の方こそ、よろしく頼むぞっ!」  今や学友となったユン達に囲まれ、真新しい制服に身を包んだメルダシウスは、ほんのりと頬を締めて嬉しそうに微笑んだ。  あれから数日。  数多の異世界を傷つけた自らの罪状を出来る限り精算したメルダシウスは、ソルレオーネに戻るなり〝学校へ行きたい〟と自ら申し出た。  メルダシウスの贖罪行脚に同行したラナによれば、さすがの彼女も数億もの世界の傷を癒やすために力を使い果たし、その究極パワーもすっかり弱体化してしまったらしい。  しかし力を失ったにも関わらず、メルダシウスの表情は実に晴れ晴れとしたもの――。  数万年前、彼女が生まれ育った世界が崩壊した際に中断したままになっていた学業をまた始めたいのだと、メルダシウスは自らの口ではっきりとエクス達に伝えたのだった。 「うむうむ! ならば予定通り、今夜は我が家でメルの初登校を盛大に祝ってやろう! せいぜい楽しみにしているが良い!」 「うん……ありがとうなのだ!」 「あ……そろそろいかねーと遅刻しちゃうぞ! メルだって初日から遅刻なんて笑えないだろ!?」 「なんてこった! 兄貴の言う通りですよ!」 「ではリーダー、今日のシフトは僕ですから! また放課後に!」 「じゃねー!」 「はわわっ!? で、ではエクスよ、行ってくるのだ!」 「行ってこい! 気をつけてな!」  すっかり仲良くなったバイト組に手を引かれ、小さくなっていくメルダシウスの姿。  その光景を満足げに見つめるエクスの胸に、たとえようもない充実感が満ちていく。  ほんの半年前までは、エクスもまた暗く散らかったボロアパートで唯一の相棒であるクロと共に一人枕を濡らす日々だった。  もし今のエクスがあの頃の自分の顔を見たら、そのあまりの覇気のなさと萎びっぷりに絶句することだろう。 「――だがそれで良かったのだ。おかげで俺は、一人でいることの辛さを知ることが出来た。そして採用面接がいかに過酷なのかを知ることが出来たのだ!」  もしエクスが十年の孤独を知らぬままに再びメルダシウスと対峙していたら、恐らく今のこの光景はなかっただろう。  最愛の伴侶となったフィオの有り難みも分からず、呪い状態のエクスにも懐いてくれたクロとの出会いもなかったかもしれない。 「だからこそ守らねばな。ここは俺たちの家……メルにとっても、ようやく出来た我が家なのだっ!」  エクスは改めて決意を固めると、そのままくるりと向きを変えて歩き出す。  その先には、青空の下にそびえたつソルレオーネが今日も変わらぬ姿で人々を見守っている。 「そういえば、今日はフィオが病院に検査に行くと言っていたな……? 最近体調が思わしくない様子だったが……ううむ、心配で胸が張り裂けそうだぞ!」  すれ違う入居者一人一人と元気いっぱいの挨拶を交わしながら、エクスは今日も、仲間達が待つ暖かな職場に戻っていくのであった――。
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