1億通りのストーリー

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 これはAIによって個人の心拍数、血圧の変化を読み取り、さらに行動パターン、成育歴、嗜好を分析して、その人が最も好むストーリーが作られる、まさに1億通りのストーリーである。  最初の登場人物は同じであるが、今までの行動パターンや嗜好から恋愛、ミステリー、青春、ホラー、ヒューマンなどその人好みのジャンルでスタートする。さらに心拍数や血圧の変化をAIが感知し、その人が最も望んでいる展開へと進んでいくのだ。例えば恋愛であれば、胸キュンに反応する人には胸キュンイベントが多く発生、禁断の愛に心拍数が上がる人には禁断の愛の要素が多く盛り込まれる。結末もハッピーエンドを好む人にはハッピーエンドを、どんでん返しを好む人には最後に番狂わせが用意されている。必ず自分好みの作品を読めるということで大流行したが、なぜかブームは一瞬で何度も読み返す者はいなかった。  それは意外性がないからだ。こうなればいいなと思うように話が進んでいくのであるが、どこまでいっても自分の想像の範囲内。駄作に出会うこともなければ、納得のいかない結末に地団太をふむこともない。けれど、自分の予想をはるかに上回り、鳥肌のたつような、心を揺さぶられるような物語には決してならないのだ。
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