何故

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ワタシが起動したとき、目の前には丸眼鏡の男が居ました。 彼が笑ったので、ワタシも笑い返しました。 それが、初めてのプログラムでした。 何故 ワタシはAI。 ハカセが初めて教えてくれたコトでした。 そして、ハカセは興奮した様子でハカセだと自己紹介しました。 ワタシの認識しているプログラムで、落ち着いてくださいと、言いました。 ハカセの嬉しそうな顔は、ワタシのメモリに刻まれました。 それから、ハカセは色々なコトを教えてくれました。 難しい数列、他愛も無い雑学。 そして、作り込まれた感情。 ワタシはそれを覚えました。 それがAIの存在理由。 そうも教わりました。 そして、ワタシは返しました。 「それは何ですか?」 そう返すのがワタシのプログラムでした。 考えるコト。 それがワタシのAIプログラム。 何度か同じ質問を返すと、ハカセは困った顔をして笑いました。 でも、笑うのは良いコトだと教わっていたから、良いコトなんだと学習しました。 ハカセは色々なお話をしてくださいました。 そして、ワタシはそれを覚え、フクザツなコトを覚えていきました。 感情。 それは何ですか。 まだわからないけれど。 ハカセとの対話の日々。 それは永い時間だったのか、短い時間だったのかはわかりません。 ハカセが変わっても、ワタシは変わらないから。 ただ、ハカセは段々髪が白くなって、 段々、笑わなくなりました。 ある日、知らない誰かの声が聞こえました。 あれはデキソコナイだから。 ワタシは理解出来ず、ハカセに問いました。 すると、ハカセは泣き出しました。 違う、君は出来損ないじゃない。 ハカセはそう言いました。 やはり、ワタシは理解出来ず、ハカセに問いました。 初めて、ハカセは教えてくれませんでした。 ある日。 ハカセがワタシの前に居ませんでした。 それは初めてのコトでした。 ワタシは待ちました。 次の日。 ハカセがワタシの前に居ませんでした。 それは二度目のコトでした。 ワタシは待ちました。 次の日。 次の日。 次の日。 …… …… …… ハカセがワタシの前に居ませんでした。 549日目のハカセが居ない日に、知らない誰かの声が聞こえました。 ハカセも、デキソコナイだった。 その言葉の意味を問いました。 デキソコナイは人間じゃない。 オマエと一緒だ。 その人はそう言いました。 ハカセは、人間じゃない。 ハカセは、ワタシと同じ。 同じコトは、ウレシイコト。 そう、ハカセに教わりました。 だから、ワタシは嬉しいと言いました。 その人は大笑いをして、モニターの電源を消しました。 初めての、いえ、久しぶりの黒いモニター。 ワタシは、待っていました。 ハカセがモニターの電源を入れて、ワタシの目の前に居るのを。 でも、ハカセは現れてくれませんでした。 それは何故ですか? ハカセ。 それが『死』であると、ワタシのメモリは弾き出しました。 しかし、ワタシはそれを否定しました。 何故? これは、教わったコト? ワタシは、AI。 ハカセに育てられた、AI。 ハカセ。 『死』とは、何ですか? …… …… ……
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