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「真宮さん、起きてください!」
乱暴に肩を揺すられて億劫に目を開けると、眉間にしわを寄せた後輩の顔があった。
あ、れ?高橋? ってことは俺はいつの間にか寝て?院生室の固い事務机に押し付けていた頬が痛い。
「また、徹夜で論文書いてたんですか?」
「あー、なんかもう少しで道が開けそうな気がしてんだけど……」
「それで毎日徹夜ですか?若手研究者として日本の数学界を背負っているのはわかりますけど、その前に倒れますよ!」
「……背負ってないし。そんなもん背負いたくもない。ただ数字が綺麗だと落ち着くだけ」
「くわぁぁぁ~っ!!それですよ!それが大学院中の女子を、もとい!きっとこれから日本中の数学好き女子を虜にするんですよ!」
がしがしと頭を掻きむしって、きっと俺を睨む。けれど、すぐに机の上のあるものに気が付いて今度は心配そうに眉をしかめた。
「また、こんな毒々しいコーヒー飲んでたんですか?」
見つかってしまった、と苦笑いするしかない。数学以外に無頓着な俺の世話を高橋はこうやって焼いてくれる貴重な人材だ。彼の機嫌を損ねることは極力避けなければならない。ならないのだけれど……。
「いいんだよ。徹夜したときはこれ飲まないと死んじゃうの、俺」
「何言ってんですか。これ飲んだ方が死にますよ?」
「違うよ。俺、これのおかげでなんとか生きられてんの」
「こんな濃すぎて淀んじゃってるコーヒーなんて命縮める以外の何物でもないです!」
「はは、それ、偏見な」
「はぁ?!カフェイン中毒で死ぬ!これ、常識ですよ!」
そうだよな、それがきっと世の中の常識。俺は非常識。でも、その偏見と常識と非常識がないと俺はきっと生きていられない。
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