不純情なピュア・ブルー

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俺と亜緒(あお)は家が隣同士の幼なじみだ。 同じ病院で2日違いで生まれ、保育園から高校まで一緒。お互い共働きの両親だったから、2人で夜まで一緒に留守番することは日常で、どちらかの親が出張の時なんかはお互いの家に泊まって一緒に寝ることも普通で。 俺と亜緒は、とにかくありとあらゆる時間を共有してきたと思う。 亜緒の知らない俺の世界はせいぜい俺の見る夢の中ぐらいだったろうし、俺の知らない亜緒の世界もそれぐらいだった。 でも。 いま、俺の隣にちょこんと正座する亜緒の長い髪から薫るのは…、馴染みのないシャンプーの香りだ。華やかで甘く鼻孔の奥に残る、いまの亜緒そのもの。 …… 俺の知らない亜緒、そのもの。 「やっぱり、澄生(すい)が教えてくれるとわかりやすい。先生よりよっぽどわかるよ!」 「そりゃどうも」 「小さいころから、数字に強いもんね~」 「……うん。数字って、なんか、いいから」 「ふふ、その台詞、澄生って感じがするね」 「……おまえ、馬鹿にしてんだろ」 「えぇ?!してないよ!むしろ好きって思ってる!」 もう教えてやんねーと言えば、予想通りに焦って縋ってくる亜緒。急にきりっと姿勢を正して「お願いします」と真剣な目で俺を見上げる。 バニラアイスが好き、猫が好き、寝るのが好き。そんなのと同じ種類の好きを数えきれないくらいもらっている。 それをひとつひとつ大事にしまって熟成させたところで、俺の欲しいに芳醇な“好き”に変わることはない。 積っていく意味のない“好き”。 わかっていても舞い上がる気持ちは、俺だけが知っていればいい。
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