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「卒業テストとか、本当に無理だよ……。文理関係なく、全教科テストするって、うちの高校なにげ鬼だね?」
「基礎問題しか出ないし。大概のやつは亜緒みたいに焦んねーよ」
「……チッ」
「……舌打ちとかすんな」
「してませーん。澄生の空耳でーす」
「そんななら、むかつくんでもう教えませーん」
「えっ?!…、それ困る…」
しゅん、と肩をすくめる。頼りなげに揺れる水分の多い瞳が、俺を見上げる。
そんな顔で見るなよ。
いつからだろうか。亜緒に見つめられることが居心地悪く感じるようになったのは。息が詰まってどうにかなりそうだ。
「教えて、……お願い、澄生。見捨てないで……」
か細い声で、しぶしぶとシャーペンを持ち直し問題を解いていく。その亜緒の横顔を見る。
新雪がふわりと積もったような白くて柔らかな頬、磨き上げられた宝石のようにしっとりと輝く瞳、薄ピンク色のぽってりとした唇、流れる髪はたおやかで。
亜緒は誰がどう見ても理解不能なぐらいの美少女で、小さいころから巷では有名だった。
亜緒の綺麗さは決して作り物のようなそれじゃなくて血の通ったあたたかい綺麗さだから、スカウトされてモデルを始めればあっという間に人気が出て、テレビにも出るようになった。
シャーペンの先を小さな唇に当てながら、俺の作ったプリントと格闘する姿さえ見惚れそうで。俺は目を逸らす。
綺麗だよ、すごく。
好きだよ、すごく、すごく。
小さいころからずっとそう思っていた。誰よりも近くで毎日見つめる程に、その想いは強くなっていく。それと比例するようにその言葉を決して口にしないと思う気持ちも強くなる。
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