不純情なピュア・ブルー

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うーん、と眉を寄せながら問題と睨めっこしていると、亜緒の長い髪がさらりと揺れてプリントの上に零れた。 どきどきとなる心臓で、そっと指を伸ばす。 触れる柔らかな髪を掬って、耳にかけてやる。触れた亜緒の耳に指先が熟んでどろどろと溶けだしそうだ。 でも、俺が触れたところで、亜緒は肩を揺らすことも、ましてや頬を染め上げることもない。 「あー、ありがと」 と、目の前の数学に全集中している上の空の声音だけよこしてくる。 そんな亜緒に、そうだよな…とひとり自嘲する。そうして、まだ自嘲なんかする自分に幻滅する。 なぁ、亜緒。 俺、数字に強いわけじゃないんだよ。数字にめっぽう弱いおまえのため。澄生すごいね、澄生教えてって言ってほしくて。俺が亜緒のそばにいるための一つの方法にすぎない。けれど、そんなのは亜緒は知らなくていいことだ。 「それ、こっちの公式使って解くんだよ」 「え、うん、わかった」 「で、方程式組んでみて」 「ほ、方程式…とは?」 亜緒は真剣なわりに全く違う解き方をするから、少しヒントを与えて正解に導く。花丸をつけると、ぱぁと顔を綻ばせる。やった!と小さなガッツポーズをつくる。ありがと!と微笑む表情は夜明けの光のようにきらきらとして目が眩みそうだ。 なんでもいいよ、亜緒のそばにいられれば。 俺に向けてくれる気持ちが小さいころから1ミリも変わっていなくても。忙しい親の代わりにぬくもりをわけあったように、台風の夜に肩を寄せ合って布団にくるまった時のように、なにかをやり過ごすためのその場しのぎでいいよ。 いまも、そう思っているのに。 ―――…なのに、もう、それさえ、叶わない。
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