エリア52

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 たっぷり4時間悪路に揺られて『エリア52』にたどり着いた。暗い森林を無理やり開墾して作ったような空間に、粗末な木製の家々が点在している。  運転手がサッカーコート並みの砂地の駐車場に止まった。眼前には大きな家が建っている。カイはここが村長の家なのではないかと推察した。  小太りの男が木製の玄関から体を揺らしてやってくる。彼が村長のようだ。後ろから、擦り切れたTシャツを着た若者が10人ほどやってくる。小太りの男は運転手と一言二言話して、商品と代金を交換していった。若者達が荷台の荷物を手分けをして個々の家に運ぶ。 「お前さんは?」  小太りの男がカイをねめつけた。 「私はあの、記者のようなものです」 「そうかい。ワシは村長じゃ」  村長も運転手と同じように狡そうな目つきをした。D国の紙幣を取り出すが、首を振る。仕方がない、カイは虎の子の金塊を手渡した。 「たっぷりと見ていくがいい。この世の地獄を」  初めに案内された家のパソコンでは、見たことも無いプログラムが走っていた。新型のコンピュータウイルスであることは何とか分かる。    次に案内された家では、アメリカ大統領とロシアの首相が笑顔を浮かべて握手している動画を見せられた。現実では敵対している国だ。これは生成AIによるフェイクだ。  3件目の家の玄関には、抗うつ薬と精神安定薬のビンが大量に転がっていた。目の下にクマができた若い男が、次々と画面と動画を切り替える。  死体が映り込んだ9.11テロ。津波。生きたまま皮をはがされる兵士。彼の絶叫が耳に入り、カイの胃が跳ねる。酸っぱいものがこみ上げ、床に胃液を吐いた。  目を画面に戻す。今度は全裸の男児が乱暴される動画に切り替わっていた。 「記者さん、これが『エリア52』の仕事、AI作業だよ。アメリカの汚れ仕事。一日中こんな画像を生成して学習させるんだ。うつ病にならない方が不思議だ」  カイは理解した。そして頭を抱える。『オープントーク』が生成してはならない不適切な案件のコンピュータウイルス、画像や動画のが、ここ『エリア52』の仕事だったのだ。  こんなもの、とてもアメリカ本国ではできない。『トーク管理社』が孫請けに出した真意が分かった。  若者が得意げな顔をする。 「俺達は新型コンピュータウイルスとフェイクニュースで世界に宣戦布告する予定だ。資金源は株価操作と児童ポルノを愛する変態からいただくとするよ」  我が社は何てものを作ったんだ。  カイは衝撃で棒のように立ち尽くした。
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