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青木和也『サクラダ アイ』
学校からの帰り道、こちらをじっと見る視線に気が付いた。僕は弱視だ。視力がほとんどない。しかし、誰かにじっと見られるとなんとなくわかるものだ。視線の先をたどれば、誰かがアパートの1階にある窓からこちらを見ていた。誰だろうと思って近づいてみると、そこにいたのは同じ位の年齢に見える、制服姿の女子高生だった。僕は思いきって彼女に話しかけた。
「えっと、さっきから見ているけれど僕に何か用?」
「青木くんだよね。青木和也くん。こんなところでどうしたの?」
彼女はいきなり僕の名前を呼んだ。青白い顔についている赤い唇が僕の名を呼んだので、一瞬ドキリとする。
「ええと、君は誰だっけ」
彼女は僕の名前を知っていた。でも僕は彼女が思い出せない。どこかで聞いたような気もするが、初めて聞いた声だった。
「え? 同じクラスの桜田亜依だよ」
赤い唇が動き弧を描いた。
「ええと、さくらだ・サクラダ・桜田……あいさん?」
「そう。えっ――。確かにあまり話したことはないけれど、私の事、覚えていないの? 嘘、信じられない」
「いや、ああ。サクラダアイさんね。覚えているよ」
適当に言い繕った。この状況で覚えていない、知らないとは言えなかった。
「でもさ、白い杖なんてついてどうしたの」
彼女は僕の手元をじっと見つめていた。
「どうしたって……僕は目がよく見えないからって、キミも同じ学校の生徒なんだろう?」
本当に彼女は同級生なのか。誰かと勘違いしているんじゃないか。盲学校の生徒でありながら白杖を白い杖と言う彼女の様子に何かが引っ掛かった。
彼女はこのアパートで兄と二人暮らしだと話してくれた。彼女の様子から、彼女――さくらだ あいさんが僕の同級生なのは間違いないようだ。彼女と少し話してから僕たちは別れた。帰ったらクラス名簿を確認しよう。そう思いながら、白杖を持ちなおしゆっくりと足を踏み出した。
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