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青木和也
あれから彼女の事は忘れていた。
あの日、家に帰る途中、車に轢かれそうになった。避けた拍子に転んでしまい、鞄の中身をぶちまけた。弱視の僕は散らばった荷物を必死になってかき集め、立ち上がった。
やっとの思いで家に帰った時には、「サクラダ アイ」の事はすっかり忘れていた。
数日後、ふと彼女の事を思い出した。名前は「サクラダ アイ」
クラスの友人達に聞いたけれど、誰も彼女の名前を知らなかった。学校帰り、知らない女の子に声をかけられ、彼女は僕のことを知っていたと話すと、友人たちは面白がって僕を冷やかした。「同じクラスどころかこの学校に『サクラダ アイ』なんていないだろ。お前、妄想が激しすぎ」「夢でも見たんじゃないの?」とかなんとか。
僕が見た彼女は夢でも妄想でもない。そう思い、学校帰り、もう一度あのアパートに寄った。彼女は、この前と同じ制服姿で窓際に立っていた。ゆっくりと彼女に近づく。彼女も僕に気がついたようだ。
「あら、青木くん。また会ったね。ネコのちぃちゃん元気にしてる?」
彼女はにっこりと微笑んだ。
「え?」
彼女は僕の名前だけではなく、飼いネコの名前まで知っていた。彼女は何者なんだろう。僕の中に一つの仮説が浮かび上がった。
彼女ではなく、彼女と同居する兄と話す必要があるようだ。
彼女の話によると、両親は交通事故で亡くなって、現在は24歳の兄と二人暮らしをしているようだ。兄の仕事はSEだという。
数日後、僕は自分の中にある疑問をサクラダ アイの兄にぶつけた。
「お兄さん、あいさんって……」
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