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幕間 翔太
かわいいかわいい従弟が、顔を合わせるたびに親友の姿を目で追っていたことくらい、鈍い俺でも気がついていた。
だからいつかきっかけがあれば、一肌脱ぐぐらいはしてやってもいいかなって、思っていたわけだ。
だってどれほどかわいいと思っていても、勃たない。
今回気がついたような言い方したけど、ずっと気がついてた。
春海はかわいい。
けど、俺にとってそういう相手じゃない。
自分を抑え込むのが得意な従弟を任せるのに、親友の誠也は足りていると思う。
むしろ下手な相手にかっさらわれてしまわないうちに、誠也に任せた方がいいだろうよって思っている。
だから、いろいろ拗らせた親友が逃げをかます前に、とっ捕まえてしまえと手をまわした。
酒を飲ませて、先走っているのは承知の上でぶちまかしてやれば、二人して真っ赤な顔でお見合い状態ときたもんだ。
お前ら、成人して何年よ?
童貞か?
「それは、翔太の言うことが正しいって、本気にしていい?」
ぶちかました俺に張り手を食らわせた春海は、誠也がそう言ったとたんにぷしゅうと力が抜けてしまった。
一気に酔いが回ったらしい。
「ノタ?」
「大丈夫か?」
俺に体重をかけてぐったりした春海は、なにかを訴えたいらしくてうーうーと小さく声を上げる。
「何?」
口元に耳を寄せてももごもご言うばかりで埒が明かない。
ああもう、しょうがねええな。
「誠也」
来い来いと向かいに座っていた誠也を呼び寄せた。
「なんか呼んでる」
「え?」
春海を挟んだとこにきたとこで、春海の身体を預ける。
「ちょ、翔太?」
「春海は、俺よりお前がいいってさ」
「それ、お前が勝手に言ってんじゃん」
「ちげーだろ? 春海はそういうの言わねえの。言えねえって知ってんだろ? こっちが押さなきゃなかったことにすんだよ」
気持ちを隠しているのが誠也の方なら、俺だってここまで世話は焼かない。
や、世話は焼くけど、ここまでじゃない。
誠也なら拗らせてるだけだから放っておいても自分で何とかするだろうし、俺にそこまでの義理はないって思う。
けど、春海は違う。
春海の母親は、甥の俺の目から見ても末っ子の甘ったれで、春海は子どものころからその母親の顔色を窺う奴で、思うことが言えない子供だった。
「俺は、春海の気持ちは気にするけど、お前の気持ちはお前が何とかしろ。春海は、今、俺よりお前がいいんだってさ。お前はどうなんだ? 腹が決まらねえなら、俺が連れて帰るけど?」
「翔太」
身体のおさまりが悪いのか、誠也に支えられた状態でうぞうぞと動いていた春海が、誠也のシャツをぎゅっと握った。
半分眠っているようなぼやあっとした目で、こっちを見る。
昔よく見た、どうしたらいいんだろうって迷っている目。
もごもごと何かを呟いているようで、誠也がなだめるように春海を背を撫でたら、泣きそうな顔をした。
「なかったことにしてたけど、しなくていいの?」
春海の言葉は、そこだけやけにはっきりと、聞こえたんだ。
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