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のたりのたり
「はい?」
なんかが耳の中を通過していった。
まじまじとせい兄ちゃんの顔を眺めて首を傾げたら、ものすごく普通の顔でせい兄ちゃんがもう一回言った。
「ノタ、好き。抱いていい?」
「いきなりそこ?」
「それくらい好きって、主張しないと伝わらないだろ。っていうか、さっきも同じこと聞いたら同意してくれたから、今ここでこの状態なんだけどね」
「ぅぇええ……?」
オレ、同意したの?
しちゃったわけ?
なかったことにしてたのに?
「居酒屋で『なかったことにしてたけど、しなくていいの?』って、ノタがおれにくっついて離れなくなったから、翔太は帰ったんだよ」
「それ、あとで怖いやつ……」
「怒ってはなかったと思うな」
せい兄ちゃんの顔が近づいてきて、ちゅって唇が触れた。
「大事にする。だから、おれにちょうだい」
「……ちゃんと、大事にしてくれるなら、いいよ」
なんかもう色々とやけくそになって、そう言った。
だって、相手はせい兄ちゃんだ。
今までなかったことにしてたくらい好きな人なんだよ。
だから、もう、いいやって思ったんだ。
せい兄ちゃんだから、いいよって。
ふ、と意識が浮上する。
うつらうつらしながらも、オレを気にしてくれてるせい兄ちゃんと目が合った。
「ノタ」
せい兄ちゃんが溶けちゃいそうに甘い顔で笑って、オレの頬を撫でた。
「に…ちゃ」
「年甲斐もなく浮かれちゃったよ……大丈夫?」
だいじょばないです。
せい兄ちゃんの全力を受け止めたので、オレは今日使い物にならない予感満載です。
ってことを訴えたいけど、その余力もない。
ので、オレは出せる力全部でせい兄ちゃんにすり寄る。
見送りとか片付けとか手伝えないけど、しょう兄ちゃんの思惑に乗った挙句の事態だから、何とかしてくれるだろう。
しょう兄ちゃんのことだから、きっとこの状態になるのは予想してる。
あとでせい兄ちゃんと二人で、しょう兄ちゃんに遊ばれてあげたら、しょう兄ちゃんは納得してくれるはず。
「ノタ……? また寝ちゃった?」
ゆらゆら。
せい兄ちゃんに抱きしめられて、揺れてる感じ。
こんな平和なゆらゆらが、のたりのたりなんだなって、思った。
のんびりゆったり、春の海が揺れている感じ。
今は、盆の終わりだけどね。
でもいいんだ。
せい兄ちゃんの春海は、嬉しくて幸せで、のたりのたりなのだ。
「ノタ? ……おやすみ」
せい兄ちゃんが優しい声で呼んでくれる。
起きたらまた、呼んでね。
ちゃんと、呼んでね。
『呼ぶな』って言うけど、呼んでね。
お約束だからね。
END
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