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酔っ払い
「マジでおもしれえ。どうしてくれよう、これ!」
しょう兄ちゃんがオレをぎゅうぎゅう絞めにして、笑い転げる。
「面白がるなよ、どうすんだよ!」
「こいつ、めっちゃ疲れてたしさあ、ばあちゃんのこと気にしてメンタル落ちてたっぽいから、酒呑ませたら酔うだろうなって思ってたんだけど、ここまでとはなあ」
「翔太!」
酔ってない。
オレは酔っていません。
ちょっとふわふわしているだけです。
だって酒は注文していない。
しょう兄ちゃんのをちょっと失敬しただけです。
「誠也、お前もさあ、俺に気ぃつかわなくったっていいって」
笑い疲れた声で、しょう兄ちゃんが言った。
「翔太?」
「こいつ、めっちゃ我慢するやつだからさ、昔から、なかったことにしようとしてやがんの」
しょう兄ちゃんが腕を緩めてくれたから、オレはていってしょう兄ちゃんを突き放す。
予想外に素直にはなれた兄ちゃんは、オレの頭を撫でる。
わしわしって、痛いくらいに。
「俺はそういうのがかわいいって思ってた。けど、俺、こいつじゃ勃たねえんだわ」
……はい?
たつ?
たつって何が?
ん~?
って首を傾げたら、せい兄ちゃんがすごい変な顔してしょう兄ちゃんに突っ込んだ。
「翔太? 何言ってんの、お前?」
「俺の気持は惚れた腫れたじゃねえなあって言ってる。この数日何遍か密着してみたけど勃たねえもん」
たつって!
勃つか!
そっちか!
っていうか、しょう兄ちゃんがおかしい!
めっちゃくちゃ変なことを、すごい真面目な顔で言いだした!
「可愛いんだよ。ノタはすげえかわいいと思うんだ。誠也に任すのもムカつくくらい。けど、恋愛じゃねえなあってなった。そんで、ノタはなかったことにしようとしてるけど、誠也に惚れてると思う。誠也、お前もだろ?」
あーあって、声で、しょう兄ちゃんが言う。
だから!
しょう兄ちゃんの顔面に、手をパーにして叩き付けた。
「しょう兄ちゃん、デリカシーって知ってる?」
「……えと、ノタ?」
「図星だろ?」
あ。
やってしまった。
しょう兄ちゃんの言う通りで、なかったことにしてたのに、ついうっかりというか勢い余ってというか。
これはバレた。
知らんぷりしてりゃよかったのに。
恐る恐る、せい兄ちゃんの方を見たら、せい兄ちゃんがものすごいことになってた。
ええと。
酒が入ってる上に、赤面してるもんだから、鼻血出そうな勢いで赤いんですが。
向かいに座ったせい兄ちゃんは、慌てたように自分の手で口を押さえてそっぽを向いてしまったけど、あの、その首も真っ赤っか。
やっちゃった。
固まるせい兄ちゃんを見てそう思った。
だけど、せい兄ちゃんは口元に当てていた手で、胸をなでおろしてから、まっすぐオレを見て口を開いた。
「それは、翔太の言うことが正しいって、本気にしていい?」
真っ赤になっているのにすごい真面目な顔でせい兄ちゃんがそう言うから、せい兄ちゃんにつられて、オレもかああってなった。
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