束の間の幸せ

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束の間の幸せ

僕達にとってはこの生活が当たり前だった。 どこに行っても快適に過ごせる空調設備、手間をかけずに動くようになった社会、空を飛べる車… 生活ドームの中から1度も出たことのない僕にはこれ以外のせかいなど想像もできなかった。 ドームの外がどうなっているかなど考えもしなかった… 僕だけではない。考える人などほとんどいなかった。 そのおかげでつくられた僕たちの幸せを少しだけ届けよう。 「おはよう!るる!今日の朝ごはんなにー?」 1人1台持っている生活サポートロボに僕はるると名前を付けた。 「おはようございます。本日の朝食はパン、目玉焼き、サラダ、ヨーグルトです。」 「やった!今日は洋食だ!いただきます!」 「ナト!おっはよー!!」 こいつは親友のタナ。僕が本音を話せる数少ない友達だ。 「おう!タナ!今日の宿題終わったー?」 「あー色んな意味で終わったわー」 「定期考査近いんだから頑張れよー」 「ナトのマジメヤローが!」 「これから機械が何でもやってくれんだから、勉強なんてしなくて良い気もするんだけどなー」 「分かるわーわざわざ勉強しなくても良いよな。」 「生徒会長!おはようございます!」 「おはよう。」 自分で言うのもなんだけど僕はいわゆる優等生、今じゃ生徒会長だ。 機械がなんでもやってくれる世の中になれば生徒会長とかやったって何にもならない。こんな本音をさらけ出せるのはタナだけだ。 授業が終わり、生徒会室でドームに包まれた人工的な町を見ていたとき、これが幸せの最後の瞬間だった。
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