蛍狩りの版画

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蛍狩りの版画

 暗い倉庫を整理していたら、奥のほうに版画を見つけた。浮世絵のように鮮やかな絵だ。宵闇の中、人々が蛍を眺めている。絵であるにもかかわらず、蛍の灯は妙に生々しい。明滅を繰り返し、あちこち飛び回っている。田んぼの上、河原の土手、小物を入れた箱や棚のそば……箱と棚のそば? 気づけば僕の周りにも蛍が飛んでいた。 「蛍って綺麗だなあ」 初めて見る蛍に見惚れて、気づくのが遅れた。絵の中から闇と同じ色の手が伸びて、僕の肩を引き寄せようとしていることに。あっと声を上げるのと同時に店長の声がした。 「春宮くーん、大丈夫?」 倉庫の電気がつくと、蛍も手も消えていた。なるほど、あの絵が倉庫の奥深くに仕舞われていたのも納得だ。
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