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重く曇っていた空から、ついにパラパラと雨が降って来た。
北原春奈は、うらめしそうに空を見上げた。両手にたくさんの荷物をぶら下げて、ドラッグストアから出て来たばかりだ。近いからって徒歩で来るんじゃなかった、と春奈は後悔していた。すぐ帰るつもりだったので、折り畳み傘も持っていない。いつもそうだ、わたしは判断を間違える。
道端の公園に四阿があったので、そこで少し雨宿りをすることにした。荷物をベンチに下ろして、ほっと息をつく。
赤ん坊を育てるのに、こんなに物が必要だとは知らなかった。衣類、ガーゼ、紙おむつ、哺乳瓶、ミルク、おしり拭き、その他色々。思わぬ出費になってしまったが、まだまだ必要な物は出て来るだろう。経済的にも精神的にも、そして物理的にも負担は大きかった。
(俊明さん……)
もうそばにいない、最愛の人のことを思い返して、うっすらと涙が出そうになる。だがすぐに春奈は出かけた涙を振り払った。
(泣いちゃダメ)
これからわたしは、あの子を一人で育てて行くんだ。その為にこの町に戻って来た。あらゆる面で苦労するのは確実だから、覚悟はしないと。泣くような隙を見せてはいけない。強く有れ、自分。
(もう少し休んだら、あの子をお迎えに行こう)
そこで春奈は、ふと気づいた。ここは昔――中学生の頃によく立ち寄っていた公園だ。もう15年になるだろうか。あの頃もわたしはよく傘を忘れ、ここで雨宿りをしていた。でも、あの時は一人じゃなかった。そう……もう一人、いた。
(――月島くん)
彼は、どうしているだろうか。
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