雨あめ降れふれ母さんが

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 月島圭吾は、春奈のクラスメートだった。どちらかというとイケメンではあったがどこか孤立しがちで、「月島って、なんかとっつきにくいよね」というのがクラスのほとんどの生徒の意見だった。春奈もずっとそう思っていた。  最初に圭吾と言葉を交わしたのは、ある日の学校の帰りだった。天気予報を見るのを忘れていた春奈は、雨に降られて仕方なくこの四阿に駆け込んだ。  そこへ遅れて駆け込んで来たのが圭吾だった。彼は先客の春奈に気づくと、どこか罰が悪そうな表情で四阿へ入って来た。  春奈も圭吾も、しばらくは無言で座っていたが、どうにも間が持たない。やがて、二人はどちらからともなくお互いに話しかけた。 「えっ……と、月島くんだよね」 「北原さん、だよな」  それまで春奈は圭吾と話すどころか、まともに顔を合わせたことすらなかった。それは春奈のせいだけではなく、圭吾の方が他の皆を避けているからでもあった。 (クラスメートの名前、覚えてたんだ)  春奈は少し意外に思った。  ともかく、互いの名前を訊いたのをきっかけに、二人はぼつぼつととりとめもない話をし始めた。クラスのこと、先生のこと、最近読んだ本のこと。  時間にしてほんの数分だったが、そのうち雨は小降りになった。 「んじゃ、俺、そろそろ帰るわ」  先に立ち上がったのは圭吾の方だった。春奈は何となく名残惜しくなり、彼に声をかけた。 「月島くん。また、どこかで話せる?」  圭吾はちらっと春奈を見て答えた。 「……雨が降ったら、ここで」
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