雨あめ降れふれ母さんが

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 それから春奈と圭吾は、雨の日だけこの四阿で会うようになった。  この公園は住宅街の真ん中にあり、広い道からは外れている。クラスメート達は大抵大通りや駅の方へ向かうので、この辺りはあまり通らない。ましてや雨の日となると、人通りはほとんどなくなる。  だからここで二人が会っていることは、学校の他の者に知られることはなかった。どこか秘密めいたこの関係が、春奈は何だか特別なもののように思えていた。  とは言え、二人で話すことはやはり他愛もないことだった。春奈は友人や家族のことを話すことも多かったが、圭吾は読んだ本やマンガ、テレビ番組やネットで見た動画のことがほとんどだった。圭吾の家族のことで春奈がわかったのは、一人っ子であることと父親がいないことくらいだった。  あれは確か、雨について話をしていた時だった。ちなみに春奈は「雨の日はじめじめしていて嫌い」と言い、圭吾は「雨宿りが出来るからどちらかと言うと好き」と言っていた。  (雨宿りするとわたしに会えるから?)と一瞬春奈は思ったが、それは流石に自分に都合が良すぎる、と考え直した。多分圭吾の言っていることは、そんなことではない。そんな気がした。  それからあれこれと話が飛んだ末に、春奈はふとこんな疑問を口にした。 「『じゃのめ』って、何だろうね?」 「じゃのめ?」 「うん、ほら、童謡であるじゃん。雨あめ降れ降れ母さんが、じゃのめでお迎え嬉しいな、って。あれに出て来る『じゃのめ』。あれが何か、わかんなくて」  きょとんとしていた圭吾は、ああ、と小さく声を上げた。 「傘のことだよ、じゃのめって。蛇の目傘っていうのがあるんだ」  そう言って圭吾は、自分のスマホで画像を検索した。 「ほら、こんな風に大きく丸い模様があるのが蛇の目傘。まあ昔の日本の傘って感じかな」 「へぇ、そうなんだ。月島くんさすが、よく知ってるね」  春奈の言葉に圭吾は少しばかり照れたようだったが、すぐに何か考え込むような表情を見せた。 「……でもさ。母親がわざわざ迎えに来てくれるのって、そんなに嬉しいものかな?」 「そりゃ、嬉しいでしょ? お母さんが迎えに来てくれるんなら」 「……だよね。普通は、そうだよね」  圭吾の言葉と表情の意味を、その時の春奈はまだわからなかった。
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