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遠く向こうの稜線に沈み始めた夕陽が、辺りに影を落としていた。
紺や青やピンク色をした空、オレンジ色の輝きが、眼下に広がる湖面の上で、陽炎のように揺れている。
瀧澤の他、付近に人影はなかったが、森の中は存外賑やかだ。木々のさざめきは大きいし、多様な鳥の鳴き声が頻りに聞こえてくる。少し前に作った焚き火も間近で燃えていて、パチパチと心地のいい音を鳴らしている。
目覚めてからここへ来るまでの移動も、着いてからのテントの設営も、のんびりとやったためこの日の昼食は遅く、腹はまだ空いていない。
それでも一時間ほど前に夕食用にと火にかけた燻製器の事ばかり、先ほどから気になってしまっている。
まだ早い。後少し。と、言い聞かせていた瀧澤の我慢も、とうとう限界を迎え、彼は右手に握っていたクラフトビールを一気に飲み干し立ち上がった。
ーー我慢なんて必要ないのさ。
それでいい。それがいい。
のんびりと。たった一人、自由気ままに。これこそキャンプの醍醐味なのだと、上機嫌にドームテントから酒瓶を持ってきた。
椅子の足元のローテーブルに置いたプラスチックグラスへ氷を入れ、クルクルと回した後、溶けた水だけを捨てる。氷を一つ追加して、今度は瓶からウイスキーを注ぐ。続けて静かに炭酸水を。割合は一対三。仕上げにペッパーミルを使って黒胡椒をまぶした。
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