0

2/3
前へ
/15ページ
次へ
 グラスに一度(ひとたび)口をつけると、たちまち広がる芳醇な香り。炭酸の清々しさと共に苦味がやってきて、果実のような甘みがじんわりと残る。アクセントの黒胡椒もピリリと効いた。  瀧澤はくぅーと顔中にシワを作って、パッと口を開いてから、信じられないといった様子でグラスを眺めた。夕陽に照らされた琥珀色の輝き。それを一気に飲み干してしまいたい衝動を抑え、グラスをテーブルへ戻す。 「さて」  独り言は胸の高鳴りの表れだ。  両方の手のひらを擦り合わせながら、焚き火へと体を近づける。  焚き火台の炎の上でモクモクと煙を出しているのは、この日初おろしの小型燻製器だ。  既に持っているダッチオーブンやメスティンを使っても燻製を作る事は出来たが、やはり専用のものが欲しくなってしまい買ってしまった。  新しいキャンプギアを初めて使う時、瀧澤は童心に帰ったようになる。  燻製を待ちきれなくなったのも、早くウマイものを食べたいという欲求の他に、道具の性能を確かめたいという気持ちがあったためだ。  耐熱グローブをはめて、ステンレス製の燻製器の蓋を開くと、一気に煙が立ち上る。煙とは思えないほどフルーティーなウイスキーオークが燻された香り。  長いトングで中から取り出されたのは、大きな骨付きの鳥モモ肉。表面はまんべんなく茶色く染まり、てらてらと光沢を放っている。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加