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新入生総代
───わたしたちはひじょうに多くの本を読んでいたので、本や事件や、歴史上の古い事柄から着想を得て物語を空想した───
エレーヌ・ド・ボーヴォワール
アミと板垣は友だちだった。二人は高校のチェス部で出会った。板垣はゲイだった。
かれらがその高校に入学したとき、新入生でチェス部に入学したのはアミと板垣の二人だけだった。かれらが二年生に進級すると、三年生が引退して、部員が二人だけになった。部員が三人以上にならなければ、部を存続できなかった。二人は新入生を勧誘する必要があった。
「新入生総代、まだ部活に入ってないって」
チェス部の部室で板垣がアミに言った。新入生総代は男子で、整った顔立ちをしていた。新入生総代というのは、入学試験でトップの成績を取り、入学式で挨拶をつとめる新入生をいう。
「そうなんだ」
アミが気がなさそうに答えた。
「なんか、東大目指してるらしいよ」
「すごいじゃん」
「なんか、勉強があるからって、部活の勧誘断ってるってさ」
「へーえ」
「ものすごくお金持ちなんだって」
「ほーん」
「うちの高校は、家から近いから来たんだって」
「ふーん」
「ねえ、あの子誘おうよ」
「断られんでしょ」
「脳トレになるって言ってみれば、食いつくかも」
「どうかなあ」
「ねえ、どう思う?」
「・・・あんたはその子がすき」
板垣が笑った。アミも笑った。
「明日、一緒にあの子のクラス行ってくれる?」
「しゃーないな」
翌日、アミと板垣は新入生総代のクラスに出向いた。
帰り支度をしている新入生総代を見つけて、板垣がもじもじしだした。
「名前はなんだっけ」
アミが板垣に尋ねた。
「柾木(まさき)だよ」
板垣がささやいた。
「柾木くん」
アミが教室を出ようとした総代に声を掛けた。
「なんですか?」
「うちら、チェス部なんだけどさ、チェスに興味ないかな」
「ぼく勉強あるんで」
「チェスは脳トレになるってアイツが言ってるよ」
アミが板垣を手で示した。
「それでお二人は・・・脳トレになってるんですか?」
柾木は微笑をうかべて二人をみつめた。
「そういうことゆーのは、わたしたちにチェスで勝ってからにしてよ」
「今から部室に来て。勝負しよ」
「いいですよ」
柾木が答えた。
「こっち」
アミがきびすを返して部室へ歩を進めた。
柾木は、アミと板垣にチェスで勝った。
「碁で負けたら将棋で勝て」と言う。アミは将棋の勝負を持ちかけた。柾木が二人に勝った。囲碁でも柾木が二人に勝った。
柾木は帰っていった。
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