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1.転校生
アイツの第一印象は最悪だった。
中学3年の4月第2金曜日、テニス部の部活を終え家路を急いでいた私は、荻窪駅前の横断歩道を赤信号で立ち止まった。
「すんません」関西弁が聞こえた。誰かが誰かに謝っている。
「あの~、すんません」先ほどよりも大きな声が聞こえた。
私だ。振り返ると、同年代の男子が立っていた。
私の腰の辺りを指さしている。
「え?」
「開いてますよ。チャック」と大きな声(私にはそう思えた)で言った。
スカートを見ると、ファスナーを閉め忘れていた。
先ほどから何かチラチラ視線を感じていたのだが、これだったのか。でも、彼の声で、おおくの信号待ちしている人が一斉にこちらを見た。
慌てて、手で持った鞄とラケットで隠しながらファスナーを閉めようとしたが、片手だと引っ掛かって上手く閉められない。
「持ってよか? 鞄とラケット」
これを持たれたら、隠す物がなくなるだろ。バカかこいつは。
「結構です。どうしてあんな大きな声で言うの!」なんとかファスナーを閉めて抗議した。
「ごめん。せやかで、小さな声やったら聞こえへんかったやん」
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