魔法の飴玉

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 先に東京へ行った香帆ちゃんからの手紙には、新しい家の住所と病院の名前が書かれていた。その場所は僕の家から恐らく電車で40分くらい。会いに行けない距離じゃない。 「本当に、戻って大丈夫なんか?」 荷造りをする僕の後ろで婆ちゃんが言う。 「うん、大丈夫。」 僕がここに来た時、婆ちゃんは何も言わなかった。でもきっと言わずにいてくれていたのだと思う。 「香帆ちゃんと、頑張るって決めたから。」 花で溢れた香帆ちゃんの家は、引っ越しと同時に売りに出された。香帆ちゃんとお父さんがこの街を出て行った後、あのお手伝いの篠田さんがうちにやって来て、僕にお礼を言った。 ―――本当に、ありがとうございました。 そう言って深々と頭を下げた篠田さんに、僕は聞いてしまった。 ―――香帆ちゃんの、お母さんですか? 篠田さんは困ったように、悲しげに笑ってゆっくり首を横に振った。亡くなっているはずのお母さんが生きていたのならそれは喜ばしいことだけれど、きっと香帆ちゃんは僕が知ってしまったこの事実を知らないのだと思う。篠田さんは、東京に一緒に行かない。香帆ちゃんと一緒にいられない理由がきっとあるのだろう。 ―――香帆ちゃんのこと、よろしくお願いします。 そう言って、篠田さんは帰っていった。 「臣、」 婆ちゃんの皺だらけの手が、僕の手にそっと触れる。 「お前は、大丈夫だ。あたしらの自慢の優しい子だよ。」 「···ありがとう。」 嬉しくて、でも少しだけ恥ずかしかった。 「婆ちゃん、冷蔵庫に入ってる飴、貰っていっても良い?」 「ええよ。好きなだけ持っていき。」 荷物を入れ終えた鞄の外ポケットに、魔法の飴玉を詰め込む。その中から1つを取り出して、包を開いて口に放り込んだ。とても甘かった。弱虫な僕にも、強くなれる魔法がかかれば良い。せめて香帆ちゃんの前だけでも強くいられるように。そう願いながら、鞄を持って立ち上がった。  
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