ハルノ声

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ハルノ声

「…春野さん…が…好き…」 今ここで僕を狂わせるなんて…僕の愛する詩歌さんは悪い女性(ひと)で、最初から僕を強く惹きつけてやまない可愛い彼女だ。     彼女の全てを僕が作り上げたい。 その僕の願望は、自分好みの彼女を作り上げたいのとは全く違う。詩歌さんに惹かれた時点ですでに彼女の全てが僕の好みだ。容姿はもちろん、髪も声も匂いも仕草も、全てが僕のために仕上がった女性。 だけど… 僕は詩歌さんを作っている細胞を作り上げたいんだ。 僕たち人間の皮膚も口の中の粘膜も、血液もみんな細胞でできている。ざっと60兆個の細胞でできている人間の体だが、約3000億個の細胞が毎日生まれて死んでいる。 そこから僕が詩歌さんを作り上げたいと考えた。 だけど、料理をするだけでは“だけ”にしか思えない。そんなのでは詩歌さんの労力の軽減になっても僕が作り上げた詩歌さんには1ミリも近づかないのだ。 だから彼女の口に入る物を僕が育てる。牛や豚を飼うことは出来ないし、毎日釣りをすることも出来ないけれど、野菜なら育てることが出来るだろう。 これを毎日食べると、毎日生まれる詩歌さんの細胞に僕が含まれる…だから少しずつ毎日口に入れてもらう。 二十日大根と言われるほど簡単に収穫出来るラディッシュを気に入ってくれた様子はとても嬉しかった。うちに来てくれるようにもなった…けど、僕の思惑をさらけ出すにはまだ早いだろうと庭は見えないようにしておいた。
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