お弁当

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クリニックを出て、暗い道を自転車で帰るのには慣れた。天気が悪い日に歩くのはちょっと怖いままだけれど…徒歩10分なので我慢する。 それくらいの我慢が出来ないと生きて行けないことは理解しているお年頃。それでも周りからは 怖がり、ビビり、臆病 だと未だ言われる私。 今朝は夕暮れ時かと思うような薄暗さを視覚に感じ、冷たい雨の濃厚な臭いを嗅覚に捉えながら歩いて出勤した。 そして長いお昼休みには、待合室のガラスと同じ色の滴がやっと朝を迎えた色の空から次々と落ちてくるのを見て自宅に戻ることを諦めた。 3時間以上あるお昼休みには自転車であれば必ず、徒歩でも大雨でなければ帰るのだけれど、今日は名波先生オススメの映画を、歯科衛生士の笹井さんと観ようと決めてクリニックで過ごした。 こういう場合の昼食は、名波先生が箱で用意してくれている日持ちするパンとコーヒーで済ませる。 「面白いと言えば面白いけど…難しい映画ですね、私には」 「情報の大渋滞」 「笹井さんがそう言うくらいなら、私には一度での理解は無理です」 「先生だって10回観てハマったかもよ?」 私より一回りお姉さんの笹井さんと映画を見終わった時には、何とか雨が降り止んでいて、いま私は長い傘を振り回し気味に歩いている。
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