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「ぇ…」
何、なに、ナニ、何やってるの?
「ハンドルが水たまりで濡れたみたいなので」
ぇえっ…
「そんな、そんな…そのままで…」
と私がお腹の前でバイバイするように、何の役にも立たない手を動かした時には、ビニール傘の黒い持ち手が男性のハンカチで丁寧に拭われていた。
ビニール傘だけどカラーで縁取りされたデザインでカラーの部分はシャカッとした素材。おかげで引っ付いた感じはしないし、ビニール傘にありがちな自分の傘が分からなくなるという事も防げるし気に入ってはいる。それでも300均の330円の傘を拭うとは、どのようなお育ちの方だろう…
私は怖い夜道であることをすっかり忘れて、その男性を見上げた。思ったよりも高いところに顔がある…あれ?ぇっと…思い出して…名前…
「ななみ歯科クリニックの方ですか?」
私の顔を見て先に分かったようだ。
「え…っと…歯科検診に来てくださる、春野さん…ですね?」
思い出せた。2度検診に来られて、また3ヶ月後に予約されたので歯とお口の健康を大切にされているのだなと思った方だ。
「覚えて頂いてましたか」
「はい」
ごめんなさい…忘れていたけれど思い出したので許してください。
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