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「みんな、昨日と一昨日は試験よく頑張ったな。十二分に結果を出せた人もいれば、そうでない人もいると思う。ただ、ここで結果を悔やんでいても仕方がない。このクラスの大半の人は二次試験が1ヶ月後に迫っている。本当に後悔しないために、切り替えて頑張っていこう!」
ありきたりな挨拶をして、先生は諸連絡を始めた。
各予備校から出ている共通テストの平均点だとか、傾向について黒板で説明している。
さっき切り替えろって言ってったのに、あまりにも堂々と振り返りから始めるから心の中でツッコんだ。
先生、その辺の情報ならみんなもう昨日のうちにネットで見て知ってると思いますよ。
「よし、じゃあこれからも二次試験までは基本的には自習だ。先生に質問がある人はいつでも職員室に来いよー! 今日の欠席は鈴宮だけかな、体調不良だそうだ。みんなもくれぐれも健康管理には気をつけるように!」
起立、礼。
何十回と繰り返している規則正しい動作とともに、朝のホームルームが終わった。
ブブッ
僕のスマホが机の中で震えた。
学校では原則使用禁止だが、勉強の一環として使うことだけ許可されている。タイマーや勉強アプリなどがその対象だ。と言っても、先生たちが厳格に取り締まることはできないのである程度は生徒の自制心に任されている。
スマホの画面には畑野からのLINE通知が表示されている。そっとタップして開くと、
『実はね、涼華と試験前にちょっとけんかした』
『すぐに仲直りしたんだけど、まだ気まずくて』
ぽんぽんっと吹き出しが送られてくる。
そっと誰にも気づかれないように、後ろの黒板を見るふりをして、僕の右後方の最後列に座っている畑野を見た。
畑野も、右手でスマホを握りしめながら僕の方を見ていて、目があった。助けを求められているような気がした。
『なんでケンカしたの?』
前に向き直って、周りの生徒にはバレないようにタイマーを設定しているフリをして返信する。
画面を閉じるとすぐに返事が返ってきた。
『涼華、専門学校に進路変えたでしょ。共通試験に真剣に取り組んでないのがなんか、腹立っちゃって』
『結構ひどいこと言っちゃった』
ぽんぽんと細切れで返ってくる。
その度にブブッブブッと震えるので、僕は慌ててスマホのバイブ機能を切った。
『なんて?』
既読がついた。LINEをずっと開いたままにしてるな。
すぐ返ってくると思って、僕もLINE画面のまま待機する。
今度はなかなか返ってこない。
長文でも打ってるのか? そうかもしかして、自分は言いたいことだけ言って自習に切り替えたんじゃないだろうな。畑野ならありえる。
もう一度畑野の方に振り返ろうとしたら、画面が動いた。
『そんなんだからいじめられるんだよって』
心臓がキュッと、一瞬で氷点下まで氷漬けされたみたいに締め上がった。
畑野も、知ってたんだ。
どっどっどっとやけに大きな自分の心臓の鼓動が聞こえた。ノートや参考書に向かっている人たちは何も変わらず手を動かし続けているのに、この一瞬で僕の席だけ時間の流れが変わったみたいに遅くなって、胃のあたりがズンと重くなった。
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